プロデューサー人材を
どう増やしていくか

 変革のキーマンとなるプロデューサー人材の要件は何だとお考えですか。

 優秀なプロデューサーは、コミュニケーション量と仮説量において圧倒的に他を凌駕しています。おそらく、外部に多様な知のネットワークとなる「ウイークタイズ」(ゆるやかなつながり)を豊富に抱え、アンテナを張りめぐらせているからでしょう。常に新しい情報をキャッチし、さまざまなジャンルに精通しています。

 彼らに共通しているのは、「越境経験」があること。具体的には出向や海外赴任、パートナー企業との共創経験などです。慣れ親しんだコンフォートゾーンを離れ、辺境でサバイバルした経験を経たからこそ得られたアセットがあります。ナレッジやインサイト、人的ネットワークなど、豊かな無形資産を自身の中に持ち合わせているのです。そしてそれらを組み合わせることによって、多くの仮説が生まれ、それを形にするために、コミュニケーションを駆使して、多くの人を巻き込んでいく。それがプロデューサーの要件だと考えます。

 プロデューサーは職掌が広く、あらゆる業務に精通したリテラシーとそれを支える多様なキャリアが求められるように思いますが、近年では日本でもジョブ型雇用が拡大し、ローテーション人事を廃止する企業も出ています。ゼネラリストの減少、スペシャリストの増加という時代の潮流の中で、プロデューサー人材の育成に影響はあるのでしょうか。

 ローテーション人事によってゼネラリストとしてのキャリアを積めば優秀なプロデューサーになれるかといえば、けっしてそうではありません。それよりも重要なのは、やはり越境経験でしょう。企業の枠を超えた共創プロジェクトや海外赴任などでの異質な経験が、自身を成長させる起爆剤となるからです。

 むしろジョブ型雇用によって多様なスペシャリストが増えれば増えるほど、これまでのヒエラルキー型組織でのリーダーシップは通用しなくなる。ダイバーシティチームを引っ張り、プロジェクトをゴールに向けて着実に進められるのは、やはり圧倒的なコミュニケーション量と仮説量を持ったニュータイプのリーダー、つまりプロデューサーでしょう。日本企業の社員は課長クラスまでは優秀だが部長クラス以上の人材層が薄いとよくいわれるのも、プロジェクト型の組織を率いるプロデューサー人材の不足が一因かもしれません。

 なお当社では、半年間かけて新規プロジェクト提案に取り組む人材育成プログラムを企業に提供しています。コト視点のビジネスコンセプトのつくり方を座学で学びつつ、社外でヒアリングを重ね、ペインポイントを探すという実践型プログラムです。最後はまとめ上げた企画書をもとに、経営層や事業部長などの前でプレゼンテーションをします。事業化が実現するケースは多くありませんが、受講者の中には、研修終了後に新規事業担当に抜擢される人もいます。我々は「2周目」と呼んでいますが、研修時での最初のチャレンジ(1周目)で得たアセットを糧に、2周目で再チャレンジを図る。そのリベンジ精神こそが、プロデューサーの最重要条件でしょう。

 では、そうした2周目に挑戦できる人材をどう見出し、増やしていくか。それには、キャリアの見える化、つまりキャリアジャーニーが重要です。そこには職歴や業績だけでなく、得意なドメイン、ナレッジやインサイト、人的ネットワークなど、それまでに蓄積してきた個人としてのアセットもうまく盛り込むことができれば言うことありません。最近はHRテックを駆使してタレントマネジメントを強化する企業も増えていますが、データをもとに一人ひとりのキャリアジャーニーを見える化できれば、プロデューサーに必要なスキル形成に向けて、今後のキャリアをアサインメントすることもできます。

 そうした中で見出す逸材に、年齢や職制はもちろん関係ありません。才能ある人材であれば抜擢し、変革のキーマンとなるプロデューサーへと育てていく。プロジェクトが同時多発する時代だからこそ、プロデューサーは多いほうがいい。彼らが互いにコミュニケーションすることで新たな仮説が生まれ、全社変革の起爆剤にもなるかもしれません。

 また、こうしたプロデューサーの育成は、将来の幹部候補育成にもつながります。プロデューサー人材プールから経営者候補を選抜し、サクセッションプランをつくるのも一手です。実際、プロデューサー人材からCxOが輩出されるケースも珍しくありません。

CDOがリードする
変革マネジメント

 DXをはじめ全社変革のキーマンとして注目されるのがCDOです。変革マネジメントにおいてどんな役割を果たすべきでしょうか。

 プロデューサーのトップに立つ総合プロデューサーとして、モノからコトへのパラダイムシフトを実現する変革をリードし、未来志向の経営を実現する。それがCDOのアジェンダです。CDOはCEOの右腕となり、CFOやCHRO(最高人事責任者)など主要なCxOとも連携して、日常化する変革をワンチームでマネージしていく。この変革マネジメント力こそ、強力な無形資産となります。

 そうなれば、優秀な人材はもちろん、外部企業が共創を求めて次々と集まってくる、学びに満ちたインナーサークルが生まれます。GAFAやイノベーションの中心地であるシリコンバレーに人や企業が集まるのも、そのアセットが魅力的だからこそ。日本にも今後、そうした無形資産が光り輝く企業が数多く生まれることを願っています。

 

◉企画・制作|ダイヤモンドクォータリー編集部