官民連携事業研究所の代表で、これまで多くの地方自治体と企業との橋渡し役をしてきた鷲見英利氏は、その理由を「低コストという点ばかりが注目されて、地方移住の本来の魅力が伝わりにくくなっているせいではないか」と分析する。

「中央(東京圏)に比べて低コストで生活維持ができるというのは、もちろん地方移住の大きな魅力ですが、メリットは他にもたくさんあります。たとえば中央で蓄えたスキルや経験値を、地方で開花させることができる点。中央では人口過多のために埋もれていた存在感や潜在パワーを発揮し、地方で自身の存在意義を再確認して、それが仕事のやりがいにもつながる。つまり、自分らしく働くことができるわけです」

 東京のWebデザイン会社で働いていたヒロキさん(仮名・39歳)は一昨年、東京から長野県への移住を決めた一人だ。

「東京にはデザイナーがあふれていて、とにかくスピード重視。仕事が途切れる心配はありませんが、社内でも足の引っ張り合いが多く、競争心が薄いタイプの僕には向いていないと感じる場面が多かった。満員電車に揺られる生活に嫌気がさして、1週間有休をもらって妻と旅行に出たんです。そこで長野の雄大な自然と出合って、こんな空気のすんだところで生活できたらどんなに楽しいだろうと。30代も後半に差し掛かって、久しぶりにワクワクしている自分がいました」

 ヒロキさんは8年以上勤めた都内の会社を退職。フルリモートが可能なデザイン会社に転職し、長野に広大な庭付き戸建てを購入した。コロナでリモートの機運が高まったことが追い風となった。満員電車のストレスから解放され、時間に追われることも少なくなり、余裕を持って仕事に取り組めることで成果が出せるようになったという。