ファストフード店で
まさかの過酷な張り込み

 20秒ほど遅れて到着したため、どの部屋に入ったかは分かりませんでしたが、出入り口は一つしかなく、まずはジュースを買って監視に向く場所を探しました。しかし、そこは商店街の中。マンションの出入り口が見える立ち張りに適した場所はなかなか見つかりませんでした。十数分後にパートナーが見つけてきたのは、マンションの向かいのビルの2階にあるファストフード店の角の席でした。

 パートナーが確保した席は、通り側に面した横並びで座る窓際席で、その席からのみマンションの出入り口が見えました。しかし、監視するには、窓に数枚貼られたポスターの3センチほどの隙間に顔を押し当てるようにしてのぞくという手段しかありませんでした。15分ほどのぞき込んだだけで、目が異常に疲れました。さらに前傾姿勢になってのぞき込むので、腰や普段使わない肩甲骨の下あたりに異常なコリを覚えました。この状況での長時間の張り込みは無理だとパートナーとささやき合いながら、お店の人やお客さんたちにはなるべく違和感を持たれないように努めましたが、窓際の席に並んで座る中年男性2人がポスターの隙間から外をのぞき込んでいる様子は、周りから見れば非常に不気味だったと思います。

 張り込みを始めて2時間ほどしても動きはなく、監視状況にも徐々に慣れて、座って張り込めることに喜びを感じていましたそのとき、思わぬ事態が発生したのです。それはガンガンに効いている冷房でした。

 気温が30度を超える外での立ち張りを想定していたため、上はTシャツ一枚という服装をしていました。全速力で大量にかいた汗はすでに引いていましたが、服までは乾いておらず、冷気が容赦なく体を冷やし続けました。着替えも持っていなかったため、お手拭きペーパーをTシャツの裏側に貼って皮膚との間にバッファを設け、むき出しの腕や首筋もお手拭きペーパーで簡易的に覆って体温の低下を防ぎ、温かいスープを何杯も注文しました。その後、冷気と戦いながらののぞき張りは閉店時間の23時まで続きました。

 時間帯としてはあまり活動することは考えにくかったのですが、雪乃さんがどういった動きをするのか全く予測が付きません。パートナーと交代でお風呂に入ったり、一時帰宅して着替えたりしたいのはやまやまでしたが、不測の事態に備えて現場を離れるのはトイレなど最小限にしようと決め、商店街の中にあったカーシェアを借りて、私たちは車での張り込みに切り替えました。