こんなときは自社で内製化せずに
ツール活用などに頼ってもよい

 私は書籍『ソフトウェア・ファースト』で、事業会社の人が何かをやろうとしたときに大手SIerを経由して二次請け・三次請けへと委託して、結局自分たちのシステムをエンド・ツー・エンドで担っていないことが問題だと書きました。基本的には開発の全工程に目配りができるようにして、可能であれば全部自社で開発を完結するのが理想です。

 ただ、専門的なものは各領域の専門家へ依頼すればいい。また可能な限りツールを活用することで、全てをイチからつくらなくてもいいと考えています。

失敗しないノーコード・ローコード活用、属人化やロックインの功罪 基本的には全工程に目配りしつつも専門家への依頼やツールの活用を組み合わせる
拡大画像表示

 このとき、どんな条件であれば自社で内製化せずに、ツールの活用や外部への委託によって楽に済ませてよいのでしょうか。

 まずは「一度作ったら二度と手を入れる必要がないもの」。一般企業ではあまり該当するものはないと思いますが、ある標準に沿っているかどうかを確認する「適合性検査ツール(コンフォーマンステスト)」などのケースでは、その標準が大きく変わらない限り、あるものやどこかに委託して作ったものを使い続けていれば構いません。

 次に「一度きり、または決まった期間しか使わないもの」。最初から使わなくなる時期が見えているようなキャンペーン向けサイトや半年後までしか使わず廃番になることがわかっているアプリなどについては、どこかへ全面的に開発を委託しても、ノーコード/ローコードツールでサクッと作ってしまうのもよいでしょう。

 続いて「誰がやってもほぼ同じ成果となるもの」。これはたとえば、外部向けサービスの社内用管理画面で、自分たちだけしか使わないようなものが該当します。アプリであればアクセス数やユーザーの滞在時間レポート、ECサービスなら1日の売上レポートやユーザー管理画面といったものは、データベースから特定の情報を引っ張ってきて、自分たちが見やすいかたちで表示・操作できればよく、やるべきことがほぼ明確です。画面設計に凝る必要もないため、外部への委託やノーコード/ローコードツールを利用してもよい部分です。

 私が代表を務めるTablyの支援先のスタートアップ、クエリアが提供するローコードツールは、そうした社内向けの管理画面を作るためのプロダクトです。一部、コードを書いて、ビジュアルブロックの組み合わせだけでは実現できない部分を解決することもできるようになっています。

 最後に「自社の事業(プロダクト)の本質部分ではないもの」。ここまで挙げた条件とも一部重複しますが、エンジニアの採用は大変難しくなっていて、どの事業会社でもつまらない仕事をさせる余裕はないはずです。貴重なエンジニアには本当に必要な開発に集中してもらうべきと考えれば、これまでに挙げたような条件では積極的に手を抜いて、外部委託やノーコード/ローコードツールを活用すればよいと思います。