東京都の男性職員の「育業」取得率が高い理由

 男性の取得率アップを妨げる要因として、企業に勤める者の年代差である“ジェネレーションギャップ”の存在も大きいだろう。たとえば、「育児は女性が行うべきもので、育休は女性が取るもの」という固定観念を持った管理職が、男性の「育業」に理解を示さないという声もあるようだ。

中島 育児休業の愛称公募を通じて、「育休のことを上司に相談したら、『休めていいね』とイヤミを言われた」とか、「『俺だって休みたいよ』と妬まれた」といった話が寄せられました。「奥さんがいるんでしょう? どうして、君が休むの?」と言われて悔しい思いをしたという声もありました。なかには、取得を諦めた方もいるようです。「育業」取得率を上げるためには、管理職の意識を変えていく必要があるでしょう。

 都庁職員の2021年度の男性「育業」取得率は全国平均をはるかに上回る42.5%で、そのうちの6割強が1カ月以上の期間を取得している。なぜ、取得率が高いのだろうか? 都の職員にも管理職と育児世代のジェネレーションギャップが存在しているはずだが……。

中島 都庁には管理職が3000人以上いて、私もそのうちの一人なのですが、すべての管理職に対して、男性職員の育業を推進する取り組みを職務目標として設定するよう通知され、その成果は業績評価に反映することとされています。これは、組織として「男性の『育業』取得率を上げる」という明確なメッセージです。管理職のマインドセットのためのこうした方法は、とても効果的だと思います。私が管理職になってから、子どもが生まれた男性部下は全員が1カ月以上の育業をしました。ちなみに、42.5%という数字から、残り6割弱の男性職員が育業していないように見えますが、都では法律上の育児休業とは別に2日間の出産支援休暇、5日間の育児参加休暇を設けています。これらを取得する職員が、全体の8割近くに達しています。

 管理職の意識改革がなされたとしても、繁忙期に「育業」する従業員が増えれば、部署内の業務が滞ることもあるだろう。都では、派遣スタッフなどを代替要員として確保することもあるが、それだけではないという。

中島 自分たちのチーム内で完結できないことであれば、部署を超えて仕事を分担しあえるような協力体制をつくります。このとき、業務があまりにも属人化されていると、他の人では代わりが務まらないという事態が発生してしまいます。日頃からみんなで業務内容をしっかり共有していくことで、“抜けた穴”を埋めやすくなります。私たちの場合は、「育業」取得率アップを目指すなかで部署間の理解が深まり、「お互いさま」と言い合える組織に変わってきているような気がします。

 もちろん、現場における管理職の葛藤は切実です。成果を上げなければならないなかで、「人員が欠けると困る」という本音はあるでしょう。都の場合は、それを承知したうえで、「『育業』取得率アップはマスト」という周知が徹底され、管理職にも若手にも「職員の育業は当り前」という理解が進んでいます。