ギブスのリフレクティブ・サイクルの有効活用法
次に、「リフレクション」する正しい方法がわからないという課題に対するヒントを考えてみたい。
第1に、効果的なリフレクションのステップについての研究を紹介する。コルブの経験学習サイクルは、リフレクションのプロセスが明確に描かれていないことが欠点であるが、この批判に対応して開発されたのがグラハム・ギブスのリフレクティブ・サイクルである。18代目中村勘三郎によると「型を知っていれば、それを崩しても型破りになる。しかし、型を知らなければ型無しになる」という言葉がある。すなわち、まずはリフレクションの型を知ることが、正しいリフレクションをする第一歩であろう。
ギブスによると、個人は以下の6ステップから構成されるプロセスを通して経験から学ぶという。
(1)「事実の記述」のステップは、出来事に対する判断を下したり結論を出す前に、「何が起こったか」「何をしたか」について、ありのままの事実を記述することを目的としている。
(2)「感情」のステップは、個人が「何を感じたか」「どう反応したか」などを振り返ること、すなわち、個人の内部で生じていたことを思い出すことに主眼が置かれている。自分の感情や考えを整理しないまま、分析のステージに移行することは避けなければならない。
(3)「評価」のステップは、出来事や行動について、「何が良くて、何が悪かったのか」を価値判断することを目的としている。
(4)「分析」のステップは、状況を理解し、出来事の原因を考えることに焦点が当てられる。
(5)「結論」のステップは、経験および分析からどのような結論が得られるかを考えることに主眼が置かれている。
(6)「アクションプラン」のステップは、「もう一度、同様のことが起こったら、どうするか」を考えることを目的としている。
このモデルは、リフレクションを促進することを目的として、より詳細な内省プロセスを提示している点に特徴がある。評価の前に、事実や感情の確認のステップがあるが、自己の経験・出来事であっても、忘却されてしまうことが多く、一連の出来事を詳細に思い出すことはできない。こうした状況を避けるためには、事実や感情の適切な確認を踏まえ、分析や結論を出す必要があるのである。また、感情の影響により、人は事実を歪曲・削除したり、一般化しがちである。大きな失敗をすると冷静ではおられず、他者に責任転嫁したり、嫌な記憶を削除しようとすることは珍しいことではない。ギブスのリフレクティブ・サイクルは、実行後の状況の報告を意識して作られたものである。つまり、何かを経験した後の、振り返りを記述するステップとして活用すると有用であろう。