最も難しく、重要な“クリティカルリフレクション”

 第2に、リフレクションをする方法として重要なのが、他者の活用である。立教大学の中原淳教授によると、人は、マネジャー・先輩・同僚などの様々な他者からの、客観的な意見を言って気づかせる「内省支援」、励ましたり、褒められたりする「精神支援」、教えられたりアドバイスを受ける「業務支援」を受けながら能力向上を果たす。そして、この中で「内省支援」が最もパワフルであると述べられている。同じく立教大学の田中聡助教は、国内企業に勤務する20代942人に調査を実施した上で、自分の仕事に対する意見を求めたり、確認を行ったりする能動的・主体的行動を指す、フィードバック探索行動がリフレクションを媒介し、職場における能力向上に正の影響を与えることを示している。

 私が実施している、高業績社員に対するインタビュー調査においても、社内外に壁打ちの相手となり、信頼できる相手を持っている高業績社員は多い。彼ら彼女らは、そもそも、失敗を失敗と思っていない。成功するまでやり切れば成功だと思っている。だから、少々厳しいことを言われても、自分の成長の糧だと思ってフィードバックを取りに行く。フィードバックを効果的なリフレクションにつなげて、成長する習慣がついているのだ。

「リフレクション」する方法の第3が「クリティカルリフレクション」であり、これが、リフレクションの中でも、最も取り組むのが難しいだろう。既に持っている信念・価値観・前提の妥当性を検討し、改定するということは、いわば、人生の「ちゃぶ台返し」だ。仕事の手段を改善したり、目標や仮説、実際の結果を振り返ったりするリフレクションと違い、深い痛みを伴う。

 メジローによると、クリティカルリフレクションを導くには、混乱を引き起こすジレンマと遭遇し、恐れ、怒り、罪悪感、あるいは恥辱感を伴う自己吟味が必要になってくる。このような経験は、人は誰しも避けたいものだ。しかし、クリティカルリフレクションは重要である。松尾先生は、経験学習の罠として、経験から学んだことの「固定化」「固着化」を挙げている。すなわち、過去の成功体験に縛られて、既存のノウハウに執着し、新しいノウハウを獲得できなくなることである。時代の変化に対応して、新しい信念・価値観を身につけないと、ビジネスパーソンも「昔のヒーロー」と呼ばれるようになってしまう。これを避けるためにはクリティカルリフレクションを行い、過去のノウハウをアンラーニングし、時代に応じた新しい考え方を身につける必要がある。

 そのための一つの手段となるのが、「越境学習」である。法政大学の石山恒貴教授によると、越境学習とは「自分にとってのホームとアウェイを行き来することによる学び」であり、「日常の職場とは異なる環境に身を置いて活動すること」である。石山先生はコルブの経験学習サイクルに基づき、越境学習における学びのプロセスを次のように説明されている。

 まず、越境先での経験から始まる。これまで自分が準拠してきた環境とは異なり、多様な考えを持つ人々が集まっているに違いない。当然、今までのやり方では通用しないことも出てくるだろう。その中でジレンマを感じながら内省し、新しい状況に適応できるように越境先経験を概念化する。越境元に戻った後に、個人は越境元において越境先で創造した概念を実験してみる。しかし、越境元での実験は容易に成功しないばかりか、大きな反発を受ける可能性さえある。

 いかがだろう? このプロセスの中で、クリティカルリフレクションが起きている可能性は高いのではないだろうか。つまり、クリティカルリフレクションを定期的に実践するには、自分の住み慣れないコミュニティを複数持ち、多様な価値観を持つ人々と日常的に交流することをお勧めしたい。参加するコミュニティは、ただの飲み会ではなく、あるテーマについての関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を、相互交流を通じて深めていく「実践共同体」がふさわしい。私は、立教大学大学院リーダーシップ開発コースにおいて講師を務めているが、このコースで学ぶ社会人大学生たちの間に、多くのクリティカルリフレクションが起こっている様子を目にする。

 今回は、主にビジネスパーソン個人がどのようにリフレクションに取り組めばよいかについて検討した。次回は、上司が部下のリフレクションを促すためにどのように振る舞えばよいか、さらに組織の人事担当者が、組織を“リフレクティブな組織”にするためにはどうすればよいかについて考えてみたい。