実践手段には「5分間リフレクション」などがある
効果的なリフレクションを実践するために個人はどうすればよいか。上述した、「リフレクション」する時間的・心理的余裕がない、「リフレクション」する正しい方法がわからないという課題に対応させて、私なりのアイデアを提供したい。
まず、時間的・心理的余裕がない場合の対応についてである。第1に、「5分間リフレクション」を紹介したい。「5分間リフレクション」は、時間に日々追われ、リフレクションする暇のない看護師からの要請に応じて、北海道大学の松尾先生が“お手軽リフレクション”として考案したものだ。一人ではリフレクションに取り組みにくいので、部署やチーム内、もしくは同期の仲間との定期的な取り組みとして、この仕組みを日常に組み込んでしまうと、よりリフレクションに取り組みやすくなる。「5分間リフレクション」は、その名のとおり、ペアを組み、5分間で相互にリフレクションし合うものである。超多忙な看護の現場で運用されており、どのような職場でも運用できるはずである。通常の「5分間リフレクション」の進め方を示すと以下のようなものになる。
STEP1:2人ペアになり、この1カ月の仕事を振り返り、経験したこと、学んだことを思い出す(1分間)
STEP2:まず1人が経験と学びを語る(2分間)
STEP3:もう1人が経験と学びを語る(2分間)
この仕組みを、会議の前に組み込んだり、同期とお互いに壁打ちの相手を務めたりすることで、定期的に振り返る癖がつく。また、マネジャーからすると、「5分間リフレクション」を会議に組み込み、部下が学んだ内容を傾聴することにより、部下の価値観や普段考えていることが理解でき、マネジメントに生かすことができる。
第2に、気づきをこまめにメモすることである。もちろん、日記やブログなどを日課にするのが最も効果的である。しかし、時間的な余裕がないのであれば、例えば、仕事をしている最中に、「これは仕事のコツだな」と思ったことや、上司からのアドバイスやフィードバックについて、手元のスマホで自分宛てに「気づき」をメールする。そして、そのメールを、1カ月に1回、全て並べて、共通している項目があれば、そこに自分なりのタイトルをつけ、マイセオリーとする。この方法なら、忙しいさなかでも、仕事を進める手を止めずに定期的に自分の気づきを振り返ることができる。記憶から記録に変換することにより、忘れた時に見直すこともできるし、記憶を言語化する過程でリフレクションが生じる。先ほどの、私がセミナーで登壇した後に振り返りをせずに飲みに行ってしまうケースであるが、研修を実施している最中に受講者の様子や、プログラムへの反応、プログラム実施に要した時間などについてメモすることにより、たとえ飲みに行ってしまっても振り返りが可能となる。また、研修実施の最中に、この作業をすることが、ショーンの述べている、行為の中の内省につながる可能性がある。
第3に、自分の感情が揺れた瞬間だけでも振り返ることである。大きな感情の揺れは、1カ月に何度もあるわけではないと思うので、忙しかったとしても、これくらいの時間は確保してほしい。私のこれまでの研究によると、高業績社員ほど、感情が揺れた瞬間を振り返っている。デューイは、疑問・ためらい・当惑・困難さなどの感情が、学習のきっかけになると言っており、感情の揺れた時が、教訓を生み出す大きなチャンスといえる。具体的には、仕事で成果をあげて嬉しかった時、もしくは、大きな失敗を犯して落ち込んでいる時の気持ちを、ノートに書き留めておく。そして、落ち着いたところで、「なぜ、私は嬉しかったのか」「なぜ、私はこんなに悔しがっているのか」をじっくり振り返り、自分の感情を棚卸しする。落ち着いたところで振り返る理由は、感情が邪魔をして、客観的な振り返りが妨げられる可能性があるからである。仕事で成果をあげた時に成功の秘訣を振り返ることは、教訓づくりに役に立つ。また、負の感情を振り返ることは、メジローの述べている、クリティカルリフレクションにつながり、信念の、よい意味の更新をもたらす可能性がある。