トヨタ生産方式に見る
効率性だけでない多様なアイデアの活用

「日本のメーカーはEVや自動運転の開発に乗り遅れているのではないか」という指摘がある。前方の自動車を検知する仕組みも、テスラなどに比べるとトヨタは慎重に新たな技術を実装しようとしている。

 過去の話になるが、ソニー創業者の井深大氏はテープレコーダーやトランジスタラジオの開発を振り返って、「こんなに難しいと分かっていたら手を出さなかった。知らなかったからこその無謀さだった」ということを述べたことがある。こうした家電製品での無謀なチャレンジは、上市した初期の製品に問題があっても製品の不具合で済まされるが、自動車は搭乗者にも歩行者にも生命に関わるリスクを与える危険性がある。走る凶器にもなり得るからこその慎重さが、経験を持つ既存の自動車メーカーだからこそ持ち合わせているという見方もできよう。

 また、冒頭で述べたようにEVは万能な内燃機関の代替技術にはなり得ない。だからこそ、世界で最も自動車を売っているトヨタは、様々な技術オプションを慎重に見極めようとしているのだろう。ライカー、ワードら米国の経営学者は、「トヨタの2つの矛盾(Second Toyota Paradox)」という論文の中で、トヨタには2つの矛盾があると指摘している。1つは、なぜあそこまで効率的な組織運営ができるのかということ、2つめはなぜあそこまで効率的な仕事をしながら、新たな製品コンセプトの開発にはムダを認め多様性を確保しているのかということだ。

 不確実性が高いときは、効率性の高さが売りのトヨタ生産システムにおいても、効率よりムダを許容したコンセプトの多様性を優先させる。それが伝統的なトヨタの両利き経営であり、これからのパワートレインの選択も不確実性に直面しているからこそ、早計に1つの技術に決め打ちしないだけである。

 なによりも、自動車には安心で安全な乗り物であってもらわなければならない。そのためには、既存企業の能力の積み重ねと、効率性だけでない多様なアイデアの活用が求められる。

(早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授 長内 厚)