実用性がない、暇つぶしでしかない、1円にもならない…。そんな批判がいくつも湧いてくる方法で、「経営の神様」と称された稲盛和夫氏は、経営者としての大局観を養っていた。その意義や効用とは?(イトモス研究所所長 小倉健一)
稲盛和夫氏が大切さを説き続けた
経営哲学「フィロソフィ」
京セラ、KDDIを起業し、日本を代表する企業に成長させ、破綻した日本航空(JAL)を再建したことで「経営の神様」と呼ばれた稲盛和夫氏は、経営には「哲学」が必要だと力説してきた。
稲盛氏について、少しでも講演や著書に触れたことがある人なら、いついかなるときも稲盛氏が経営哲学「フィロソフィ」の大切さを説いていることを知っているだろう。
「人間はある程度成功すると傲慢になってしまい、独りよがりな、自分だけよければいいという利己心がでてくるようになってしまいます。しかしこの利己的な心は、相手はどうなっても構わないという思いを生み、決して良い結果は招かないわけです。私たちは相手を思いやる優しい心を持つことが必要です。『思念は業をつくる』という言葉は、素晴らしいリーダーになろうとするなら、自分の周囲の人々だけではなく、自分たちが住んでいる地域社会の人々、さらには人類すべての幸せを願う、愛に満ちた優しい心が必要なことを教えてくれています」(1996年8月30日「京都市幹部研修会講演」稲盛和夫経営講演選集【第2巻】より)
「思念は業をつくる」とは、人間がその時々で抱く思いがさまざまな業、つまり原因をつくっていくという意味だ。良いことを思えば良い原因をつくり、悪いことを思えば悪い原因をつくる。仮に思っただけで、口に出したり実行したりしなかったとしても、結果の原因になり得るという考えだ。だから「思い」というものを軽々に考えてはいけないと、稲盛氏は説く。
近年、経済のグローバル化やテクノロジーの急速な進展に伴い、企業経営においても変化に対応する必要が増してきた。多様な人材を抱えようとするには、「利益を出せ」「売り上げを上げろ」だけでは組織をまとめ上げることができない。自分の働く組織に、働く価値を見いだせなければ、組織は求心力を失い、バラバラになってしまう。
このような状況下で、リーダーたちは経営における哲学の重要性を再認識し始めている。
しかし、一部では哲学に対してネガティブな評価が見られることも事実だ。そこで、経営において哲学を実践する意味があるのか、その意義を探りたい。