
特集『ガンダム・ジークアクスの舞台裏』(全13回予定)の#8は小形尚弘バンダイナムコフィルムワークス(BNF)ガンダム事業本部長インタビューの中編をお届けする。鶴巻和哉監督と仕掛けたさまざまな制作意図や狙いについて、前回(#7)に続きさらに詳しく聞いていく。新しいユーザー層の獲得以外に得られた想定外の結果とは、そして実は計算されていた平日深夜帯の放送枠の意味とは。(聞き手/ダイヤモンド編集部 鈴木洋子) ※本文に一部作品のネタバレが含まれます。
50代以上の休眠ファンが一気に「覚醒」したジークアクス
平日深夜にSNS、メッセージが飛び交う状況に
――バンダイナムコフィルムワークスとスタジオカラーという、結果的に素晴らしいベストマッチの組み合わせだったと思いますが、小形さんから見てジークアクスのプロジェクトで「予想外」だったことは何かありましたか?
「今回の新シリーズのガンダムでは、若い観客を獲得してください」と僕は鶴巻(和哉監督)さんにオーダーしているんですけど、そこは大成功でした。
鶴巻さんに「今回は、宇宙世紀のガンダムを若い人たちに見てもらえるようなものにしたい」と言っていただいていて、それに関しては非常に大きな成果として達成できました。本当に鶴巻さんにお願いしてよかったです。ジークアクスをきっかけにファースト(1作目の『機動戦士ガンダム』)や『機動戦士Zガンダム』など過去作の視聴も進んでいますし、この結果も想定以上です。
うれしい想定外もありました。というのは、劇場版とテレビ版でファーストガンダムの第1話をなぞる話が出てきたり、シャリア・ブルをはじめとして、バスク・オムやサイコ・ガンダムなどファーストや『Z』の登場人物が出てきたりするんですが、それによって、50代以上のメインのボリューム顧客層が、休眠層も含めて一気に目覚めた。今までガンダムのオルタナティブ作品からは離れていた、休眠ファースト世代が「覚醒」したといった感じでしたね。
これで、会社でもそういう人たちが職場の若い人たちに「これを見ろ」と昔のガンダム作品を薦めたりとか、お父さんが子どもに昔のガンダムのことを話したりと、想定していなかったすごくいい循環と交流が生まれました。
光の中から初代ガンダムであるRX-78が最終回のラスボスとして現れる、という11話のラストシーンを見た僕の大学時代の友人が、放送後の夜中の3時にメッセージを送ってきました(笑)。似たようなことが各所で起こっていたようですね。すごくいいことですが、ここまでになるとは。本当に想定を超えていました。
こういった結果も含めて、鶴巻さんが最初に設計していた「宇宙世紀をみんなが再発見する」という目標をジークアクスは大いに達成しました。
ガンダムは今年46年目でこれから50年を目前にしています。この先いかにガンダムを100年、それ以上まで続けていくかがわれわれにとって大切なミッションです。50代以上のわれわれの世代から、いかにその次の世代にガンダムを継承していくかという流れの中では、非常に重要なポイントになった作品、45周年にふさわしい作品になったという感じはありますね。
テレビ放映は火曜日の深夜帯という時間枠にもかかわらず、大きな話題を呼んだジークアクス。実はこの時間帯を選んだことにも意図があったという。そして、異なる二つのスタジオのコラボレーションがいかにして成立したか、制作当時の模様も小形氏は語ってくれた。また、エヴァンゲリオンのIP戦略からの学びもあったという。