「物事のいろいろな捉え方」を伝えることの価値
社会への不安感が強く、「就活病」を患(わずら)い、失敗を恐れて、他者から与えられることが当たり前だと思っている就活生――そうした彼ら彼女らに、企業の採用担当者や面接官はどう向き合っていけばよいのだろう。
光城 答えになっていないかもしれませんが、「どう向き合う」というよりも、「ちゃんと向き合う」ことは、大事だと思っています。それこそ、就活病は学生だけではなく企業や社会にも広がっていて、昭和や平成の「型」のまま、細かいテクニックやノウハウはどんどん増えていますよね。そうした研究やデータもたくさん出てきますが、それですら精度が高いわけじゃない、というか、人の活躍なんて影響要因が多すぎます。
それを前提として僕が考えるのは、インターンシップや面接時の様子から、その学生が入社した場合に「どう変わっていくか」を想像することだと思います。
自社の採用基準をきちんとクリアしている学生を採る――それは当然のことですが、目の前の学生の多くは、これまで就活病で失敗過敏症で、「MNAS」だとしたら、それを克服したときにどうなり得るか、の方がポイントだと思うのです。
これから社会の中で、自社の中で、どう成長し、どう変化していくかを見極めていくほうが、「現状の学生」で評価するよりも、会社にとっても価値を生み出せる可能性が高そうです。
特に、「MNAS」傾向にある就活生に対しては、企業は、何を、どのようにメッセージしていくのが得策か?
光城 それって本当にむずかしいな、といつも考えているのですが、「視点の数や幅」を、伝えてあげることだと思います。
単純な話ですが、「もらう楽しさ」も良いけど、「与える楽しさ」だってあるよ?と、どこまで感じてもらえるかはわからないけれど、それを伝えるのが社会人としての責任、価値なのかな、と考えています。
たとえば、ワインを初めて飲んで最初から「おいしい!」と思う人って、そんなに多くないと思うんです。ワインに詳しい人に、ワインの品種や地域の特色を聞いたり、何を意識してどんな飲み方をして、何と合わせればいいのかを知ったりする中で、自分好みのワインを見つけることができたりしますよね。
たぶん、仕事や社会も同じで、「楽しみ方」を知らない学生がたくさんいます。異物をシャットダウンしてしまったり、出会う機会がなかったりするだけで、視点を得るだけで変わり得る学生はいくらでもいるのです。そういう意味では、最近の学生は決まったメニューからしか選べない傾向があるので、アラカルトメニューを設けて、たくさんの捉え方・受け取り方を用意して、見せてあげてもいいかもしれません。そうした姿勢で向き合っていけば、就活生が入社後にどう変わっていくか、自社で活躍できるかどうかを判断できるでしょう。
WEBサイトでの新卒採用ページでも、どうにも壮大というか、カッコつけた事例やメッセージが多くて、面接時や入社後のリアリティショックが起きやすいので気をつけたいですね。社会の仕組みを知らない、仕事の方法がわからない学生に、カッコつけたものや大きいことを見せても、学生はその奥にあるリアルまでは想像できないことのほうが多い。自分の視点の中で都合良く、楽しそうな部分だけを拾って解釈してしまいます。できるだけわかりやすく、自社の価値観や物事の捉え方を語り、発信するのがよいと思います。