ニュースで見聞きした国、オリンピックやW杯に出場した国、ガイドブックで目にとまった国――名前だけは知っていても「どんな国なのか?」とイメージすることは意外と難しい。大人の教養として世界の国々を知ろうと思った時におすすめ1冊が、新刊『読むだけで世界地図が頭に入る本』(井田仁康・編著)だ。世界地図を約30の地域に分け、地図を眺めながら世界212の国と地域を俯瞰する。各地域の特徴や国どうしの関係をコンパクトに学べて、大人なら知っておきたい世界の重要問題をスッキリ理解することができる画期的な1冊だ。本書から特別に一部を抜粋して紹介する。
東ヨーロッパはどんな地域?
東ヨーロッパは、ヨーロッパとアジア、ヨーロッパとロシアをつなぐ位置にあります。歴史的には、古代ローマ帝国の周縁部に当たり、後世への文化的影響の度合いは国によって異なります。
また、ヨーロッパ列強国、オスマン帝国、ロシア帝国がせめぎ合った地域でもあります。そうした歴史的背景の下に、民族は、多数派のスラブ系のほかアジア系やラテン系の民族も生活しています。
この地域に広まっている宗教は、東部と南部(ウクライナ、ベラルーシ、ルーマニア、モルドバ、ブルガリア)では正教会系が多く、西部(ポーランド、スロバキア)ではカトリック、またドイツに近い国(ハンガリー)ではプロテスタント、イスラーム圏に近い国(ブルガリア)ではイスラーム、そして社会主義思想の影響によるものか無宗教が多数となる国(チェコ)もあります。
ヨーロッパ、ロシア、アジアが交錯する位置にあって、さまざまな民族や宗教、さらに文化が混交する多様性のある地域です。
ソ連崩壊後で始まった「東欧諸国の新たな国づくり」
ほかにもこの地域を見る上で重要なことは、歴史上初の社会主義国である旧ソビエト連邦の周辺にあって、その変転の影響を受けながら各国の体制が推移してきたことです。
現在の東ヨーロッパの国々をソ連との関係で見ると、ソ連を構成した国と、その強い影響下にあって社会主義体制をとった国に二分できます。
後者の国々は軍事的にはワルシャワ条約機構、経済的にはCOMECONによって、ソ連と一体化していました。やがて、社会主義体制内部のさまざまな問題が顕在化するとともに、1980年代末に、ソ連は連邦内の各国や同盟国への不干渉を宣言し、続いてソ連自体が崩壊すると、各国は新たな国づくりに取りかかります。
その多くは非社会主義化の動きでしたが、なかには社会主義的体制を維持した国もありました。
民主的な選挙によって選ばれた指導者が独裁的な政治を続ける国や、市場経済への転換が順調に進まない国もあり、政治的にも経済的にも不安定な状態にあったといえます。
その中で、旧ソ連を引き継いだ大国ロシアとの関係を重視する国、EUに接近する国、あるいは両者との関係を維持する国が出てきます。
各国の姿勢は、ソ連崩壊後創設されたCIS(独立国家共同体)への加盟と脱退に、そしてEUやNATOへの加盟にあらわれています。ただ、いずれの国も、エネルギー供給など、ロシアとの経済的関係を軽視することはできないのが現実です。
安価な労働力を求める外国企業の進出
40年あまりの期間にわたって社会主義経済にあった東ヨーロッパ各国の生活水準や技術水準、生産体制等において、西ヨーロッパ各国との間には大きな格差があることが明らかでした。
それは賃金水準が相対的に低いことでもあり、安くて良質の労働力を求める欧米やアジアの企業による生産拠点の移動を促しました。
EUという統合市場の中で生産コストを少なくできる地域があることは、企業にとって大きな魅力となりました。
進出した外国企業の業種は機械の組み立てなど労働集約的な部門から始まりましたが、現在では、しだいにICT産業など知識集約的な部門に移りつつあります。
その背景には賃金水準の上昇や人手不足のほか、高度な技術をもつ人材がこの地域で育成されていることがあります。
(本稿は、『読むだけで世界地図が頭に入る本』から抜粋・編集したものです。)