ダイバーシティな職場の価値はどこにあるのか?

 工場を巡ってみると、障がいのある人の存在にまったく気づかないほどだが、ふとした“コミュニケーションの行き違い”などは起こらないのだろうか。

吉田 障がいのある方は、その方ならではの障がい特性をお持ちです。○○への拒絶反応が強いとか、何かがすごく気になるとか。自分の得意な領域の仕事は自信があるのに、違う仕事をすると、心身のバランスを崩してしまったり……人それぞれで、マネジメントが難しい面はあります。職場の責任者は障がいのある方と話し合い、どういう会話が嫌か、どういう仕事の方法が苦手かを把握していきます。責任者が部署を替わるときは引き継ぎをきちんと行い、障がいのある方と誤ったコミュニケーションをとらないようにしています。寄り添い、正しくケアすれば、障がいのある方は大きな力を発揮してくれるので、たとえ、仕事のスピードが遅くても構わないと、私は思っています。その方に向上心があって、質の高い仕事をしてくれればいい。プライドを保てる職に就いていただくことが大切だと思います。

 障がいの有無にかかわらず、他者との対話など、コミュニケーションが苦手な従業員もいるのではないか? アンコンシャス・バイアスで、「職人=無口」というイメージもある。

吉田 コミュニケーションが苦手な方もたしかにいます。そうした方には、私も職場内の同僚も余計なコミュニケーションをとらないようにしています。ただ、私は仕事上のライバルや直接の上司ではありませんから、私から一言二言の声をかけられることは嫌ではないようです。ですから、「ちゃんとご飯を食べている?」「体調は大丈夫?」といったふうに、毎日みんなのところに行って、声をかけるようにしています。

 あらゆる属性の従業員が、ひとつ屋根の下でそれぞれの最善値を目指しているキングスター工場。吉田さんは、そんなダイバーシティな職場(多様性のある職場)の価値をどう見ているのだろう?

吉田 障がいのある方、シニアのほか、妊娠中でおなかが大きい方も働いていらっしゃいます。その方が働きやすくなる環境をみんなで考え、身体(からだ)をいたわってあげることが当たり前になっています。時短で働く方、フルタイム勤務の方……さまざまな人のそれぞれの働き方で工場が成り立っていて、思いやりや優しさが生まれるのは、自分と異なる人がたくさんいるからかもしれません。誰かが誰かを気遣う姿を見て、「自分もああしよう」「自分もああしてほしい」と思うこともあるのでしょう。そうした考えや想像が好循環をもたらしているのだと思います。