プーチンが大統領選を意識することでロシアは戦況悪化も、防衛研・兵頭氏が指摘Photo:Anadolu Agency/gettyimages

ワグネル反乱を機にプーチン体制中枢の揺らぎが表面化した。防衛研究所の兵頭慎治研究幹事は、来年3月の大統領選を意識したプーチン大統領が「強い指導者」を誇示しようとウクライナ戦争への介入を強めると予想し、さらなる戦況悪化や統制力低下を招く”ジレンマ”が強まる可能性があるとみる。インタビューの後編では、政治の季節を迎えるなかでのウクライナ戦争の行方を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)

選挙での得票率が政権安定の鍵
追加動員による戦線強化は困難

――ロシアでは9月に統一地方選挙、そして来年3月に大統領選挙が予定され、「政治の季節」になります。選挙の展望、ウクライナ戦争への影響をどう考えますか。

 大統領選の前哨戦の統一地方選挙で、プーチン大統領の与党が勝利することは間違いありません。大統領選挙でも、どの程度の得票率を得るかが問題となります。

 ワグネルの反乱で明らかになったように、政権中枢にはいろんな勢力が存在します。国民から絶大な支持があるとなると、不満分子も不穏当な動きはとれません。

 しかし、プーチン大統領の支持率低下がはっきりすれば、政権の中枢勢力がプーチン氏と距離を置いたり、不満を表面化させたりする懸念があります。

 そのためにも、プーチン大統領は高い得票率で勝利しないといけないわけです。

 選挙戦では、どこの国も予算のバラマキを行います。一方で国民が嫌がる追加の兵員動員はできませんから、戦線を強化するのは難しいと言えます。

 しかし、ワグネル反乱後もプーチン氏に8割の支持があるのは、強い指導者として、ソ連解体後の混乱を鎮めた実績、つまりロシア国内の安定や治安を確保したからです。

 従ってプーチン大統領は少なくとも国内は安全であり、治安は確保されていることを国民にアピールする必要があります。

 モスクワがドローン攻撃を受けたり、今回の武装蜂起が起きたりして、プーチン氏の絶対的神話に揺らぎが見えるような状況で、もう一度、強い指導者としてアピールして、高い得票率で地方選挙に勝つことが大統領選再選の大きな鍵になります。

 当然、プーチン氏はそれを意識した政治行動に出るでしょうが、これが逆に戦争を難しくし、自らの権力基盤を弱めることになりかねません。

大統領選を意識したプーチン氏が、「強い指導者」を誇示しようと戦争への介入を強めると予想する兵頭氏。次ページではプーチン氏の政治行動が戦況の悪化を招く理由や、プーチン体制の行く末について語ってもらった。