ロシア・ワグネルの反乱は1日足らずで頓挫した。しかし軍上層部が事前に計画を知っていたなどの関与も疑われ、プーチン大統領の威信失墜や反乱収拾の過程での存在感の薄さはプーチン体制の脆弱さを印象づけた。反乱はロシアやウクライナ戦争の今後にどのような影響をもたらすのか、近著で「プーチンの戦争」を分析するなど、プーチン体制やロシア政治を長年見てきた下斗米伸夫・神奈川大学特別招聘教授は、「反乱は“ガス抜き”に終わった。プーチン体制が揺らぐことにはならない」としながらも、「ウクライナ戦争のリアリズムをのぞかせた」と語る。(聞き手/ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)
戦場で英雄視されたプリゴジン氏
ウクライナ戦争のリアリズムを反映
――ワグネルのトップ、プリゴジン氏の反乱をどう受け止めますか。
ワグネルはモスクワへの進軍の際、1基20億円する地対空ミサイルシステムも持っていて、それでロシア軍の航空機やヘリコプターなどを撃墜、死者も出したようです。
地対空ミサイルはまさにロシア軍の全体の防御システムの一部です。もしそれが本当ならこの時点で国軍を敵に回し、反乱以上のことともいえます。
ただし結局は“ガス抜き”で終わり、プーチン体制が揺らぐことにはならないと思います。治安や諜報のプロでもあるプーチン大統領からすると、プリゴジン氏は軍人でも政治家でもない素人の野心家。発言も一貫せず、パワーゲームをやる器ではなかったということです。
ただ今回の反乱はそうした人物が戦場で英雄視されるなかで起きた点では、ウクライナ戦争のリアリズムが反映されています。
ワグネルの反乱を巡っては、軍の関与やプーチン大統領の求心力の低下も指摘されている。プーチン体制は「揺るがない」と下斗米教授が考える理由は何か。次ページでは、ワグネルが反乱を起こした背景や、反乱で浮き彫りになったウクライナ戦争のリアリズムについて下斗米教授の見解をお届けする。