プーチン大統領の「次の一手」、ウクライナ反転攻勢しのいだ後の停戦シナリオPhoto:Anadolu Agency/gettyimages

1日足らずで頓座したワグネルの反乱は、ウクライナ戦争のあだ花にすぎないのか。威信が失墜したとはいえ、プーチン大統領は反乱後も高い支持率を維持する。ウクライナ戦争やプーチン体制の今後はどうなるのか。下斗米伸夫・神奈川大学特別招聘教授は、プーチン大統領が来年3月の大統領選挙を意識し、「ウクライナの反転攻勢をしのいだ後、秋以降、非武装地帯設置などで停戦に動き出すのではないか」と見る。どんな停戦シナリオが考えられるのか。(聞き手/ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)

8月にも大統領選出馬を表明
秋以降は「政治の季節」を意識

――ロシア・ワグネルの反乱は収拾されましたが、プリコジン氏と連携した軍幹部などの粛清の動きを予想する声もある一方で、9月に地方選挙があり、2024年3月には大統領選挙が予定されています。ウクライナ戦争も含めて、プーチン大統領の「次の一手」をどう考えますか。

 プーチン大統領は反乱収束直後にダゲスタン共和国を視察し、民衆と近しく接したとする映像が流されたりしました。国民の支持はまだ自分にあるとアピールすることが狙いだと思います。

 実際に、世論調査では反乱後もプーチン支持はほとんど変わりません。

 プーチン大統領にとって、地方選挙やその先の大統領選でいかに勝利するかが重要課題です。「政治の季節」をより意識することになると思います。ウクライナのゼレンスキー政権は9月の議会選挙や24年5月の大統領選挙は戦争を理由にやらないと決めていますが、プーチン大統領はいまのところ、地方選挙は東部の4州もやるといっています。

 戦線や国内の治安に自信があるのだと思います。おそらく8月ごろには大統領選出馬を決断するのではないでしょうか。そしてウクライナ問題では、反転攻勢をしのいで有利な状況で停戦にもっていくことを考えていると思います。

 私の理解では、もともとプーチン大統領が22年2月24日に始めた「特別軍事作戦」は、ウクライナのNATO化阻止の政治的なデモンストレーションだったと思います。

 ウクライナにNATO加盟をさせず、中立化を強要するための軍事力の行使の意味合いがありました。

 それで象徴的行為としてキーウとハルキウを奇襲攻撃した。ウクライナ軍の主力はドンバス地域に来ると待ち構えていましたが、攻撃情報をウクライナ側の諜報員キレーエフが1日前につかんで特殊部隊がキーウの空港で待ち伏せしたのです。

 第一幕は失敗したわけですが、ロシアはウクライナとすぐに交渉を始めるわけです。トルコとイスラエルが間に立つ形で、3月末には、ウクライナの中立化やドンバス地域の帰属問題の棚上げなどでほぼまとまりかけたといわれます。

 ところが3月下旬にポーランドを訪問したバイデン大統領やその直後にキーウを訪れたジョンソン英首相(当時)が、停戦は時期尚早だと、ロシアを弱体化させる必要があるということで猛反対して、プーチン体制への経済制裁による「レジームチェンジ」を目指すようになったわけです。

 英国はNATO拡大にウクライナが加わらないのなら一切、武器供与はしないと脅しをかけたといわれています。

 だから、プーチン大統領の頭の中には停戦の思惑があるはずです。ウクライナの反転攻勢がうまくいっていないこともあって、状況は昨年3月に比べて自分たちが優位に立っていると考えているでしょう。

 今年は10月(2~5日)に、世界のロシア研究者らを招いての国際的なフォーラムであるバルダイ会議を開くことを決めましたから、そこでプーチン氏は大統領選に出ることを含め秋の和平交渉に向けての考えを話すのではないかと思います。

プーチン大統領が来年の大統領選を意識し、ウクライナの反転攻勢をしのいだ後に停戦に向けて動きだすのではないかと予測する下斗米教授。どんな停戦シナリオが考えられるのか。戦争を「もう1ラウンド」長引かせる要因や、和平交渉のキーマンとともに、今後を展望してもらった。