旧統一教会へのバッシングも「誹謗中傷」?

 そんな「非国民へのリンチ」の中で、今もっともわかりやすいのが、旧統一教会へのバッシングだ。SNSでは、「旧統一教会を叩きつぶせ!」「旧統一教会はクソ」「寄生虫カルトはとっとと死ね」などの攻撃的な言葉が飛び交っている。投稿している人たちは「非国民」を叩きつぶすことで、「正義」を執行しているつもりだろうが、信者の皆さんからすれば、これは理不尽極まりない「誹謗中傷」以外の何ものでもない。

 なぜか。勘違いをしている人も多いが、実はあの教団はまだ「犯罪者集団」でもなんでもないからだ。オウム真理教のように信者や幹部が刑事事件で逮捕されたわけではない。かつて入信していたけれど、信仰がなくなった人や、信者ではない家族が「被害」を訴えて民事訴訟をしているだけだ。

 霊感商法での高額献金が問題だというが、神や仏の話を説きつつ高額のお布施を求めない宗教の方が少ない。創価学会でも、幸福の科学でも、高額献金をした信者など山ほどいる。そして、その後にだまされたと被害を訴える人も必ず一定数、存在するものなのだ。

 反日教義を掲げて日本から金をむしりとっているから解散させろ、というが、日本で荒稼ぎしている韓流タレントでも、日本人も愛用するサムスンなど韓国メーカーの人々も、韓国にいる時は、同胞たちの前で当たり前のように「岸田を呼んで戦争責任を取らせろ」くらいのことは言うだろう。特に韓鶴子氏くらいの世代の韓国人ならば、あのような反日発言は「平常運転」だ。

 教団をかばっているわけではなく、他の新興宗教や韓国人にも確認される現象を、さもこの世で旧統一教会だけしかやっていない異常のことのように語っていることに違和感を覚えるし、それを指摘してはいけないというムードが、不気味だと言っているのだ。

 宗教法人としていろいろな問題があることは間違いない。ただ、その問題と、「つぶせ」「死ね」とか誹謗中傷することや、国家権力によって強制的に解散をさせることは、まったく別の話だと言いたいのだ。そのあたりは、弁護士の橋下徹氏の7月14日のツイートが端的に説明しているので、引用させていただく。

<民法上の使用者責任だけではなかなか解散できないというのが文化庁のこれまでの解釈。僕はそれに賛成。この程度で団体が解散させられるなら電通もADKも不祥事を起こした会社は皆解散させられてしまう。組織中枢部の団体活動にまつわる刑法違反に匹敵する違法性が必要。その証拠がないから文化庁は苦労している>

 筆者はこの「違法性」がしっかりと立証されていないにもかかわらず、「山上徹也が気の毒」という同情論や、一部のジャーナリストや弁護士の皆さんたちの主張だけで、なんとなく「違法性あり」になっている「正義の暴走」ともいうムードが薄気味悪いと思っている。

 旧統一教会の関連組織である「国際勝共連合」に潜入したドキュメンタリー「反日と愛国」を制作したのもそれが理由だ。

 規範意識の高い人ほど、旧統一教会が許せないだろう。メディアはこの1年、「反日カルト」だと繰り返し報じてきたので、ピュアな“正義の人”ほど、「この地球上から根絶したい」と激しい憎悪が湧き上がっていることだろう。

 だが、筆者のドキュメンタリーを見ていただければわかるように、皆さんが「つぶせ」「死ね」となじっている「非国民」たちは、ごく普通の市民だ。うつろな目でブツブツ教義を唱えているような人でもなければ、日本転覆を狙う悪の組織の人でもない。悩みながら信仰を続けている普通の新興宗教の信者なのだ。

 そのような人々を糾弾して、教団を解体して強制的に信仰をやめさせても、新たな「対立と分断」を生むだけだ。むしろ、山上徹也のように「暴力で世界を変えられる」という愚かな勘違いした人を量産していくことにしかならない。

 もし「誹謗中傷」を本気で防ぎたいのなら日本の「過剰な規範意識教育」と、それが引き起こす「正義の暴走」についてしっかりと考えるべきではないか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)