匿名性が大好きな日本人の醜い現実

 理由を説明する前に、大前提として日本の状況を振り返っていこう。今、日本は「誹謗中傷大国」と呼んでも差し支えないほど、社会に誹謗中傷があふれている。

 もちろん、SNSで他人を心ない言葉で侮辱する行為というのは幅広い国や社会で確認されているが、日本の場合はその「量」と「陰湿さ」が抜きん出ているのだ。

 まず、「量」に関しては、日本人はTwitterが世界一好きということが大きい。

 22年1月の国別ユーザー数では、首位アメリカ(7690万人)に次いで日本は5895万人で世界第2位なのだが、ヘビーユーザーが圧倒的に多い。イーロン・マスク氏が先日、日本のユーザーの利用時間が世界一だとして「1人当たりの使用量だと米国の約3倍です」と述べたように、朝から晩までTwitterに何かを発信している人が世界一多いのだ。

「量」が世界一ならば当然、誹謗中傷も世界一多くなるだろう。

「なぜそんなことが言える!愛犬や赤ちゃんの写真とか好きな推しについてつぶやいている人が多いだけかもしれないだろ」と反論したくなる人も多いだろうが、その可能性は低い。日本は世界でも有数の「匿名SNS大国」でもあるからだ。

 9年前のデータだが、平成26年度の情報通信白書によれば、日本のTwitterの匿名利用の割合は75.1%で、アメリカは35.7%、フランスは45%、韓国は31.5%となっている。日本人が匿名性を好む傾向は今もそれほど変わっていない。

 このような「匿名文化」が誹謗中傷の「陰湿さ」に拍車をかけているのは、もはや説明の必要がないだろう。「死ね」「消えろ」「顔を見るのも不快」「気持ち悪い」などという心ない言葉を家族や隣近所、会社の同僚や上司の前で平気で言える人は少ない。しかし、自分の名前も素性も知らない人たちの前で、しかも見ず知らずの他人に対してならば、いくらでも罵詈雑言が吐けるという人はいる。

 社会的地位も脅かされない、人間関係も崩れもないという「安全地帯」にいるからこそ、心ゆくまで陰湿な誹謗中傷ができて、相手を自殺に追い込むほどの粘着さも発揮してしまう、という部分は確かに存在しているのだ。

 その醜悪な現実がうかがえるのが、「世界一の削除要求・開示請求」だ。