THAADの正式配備を
文在寅政権が妨害
THAADは北朝鮮の核・ミサイルを迎撃するシステムだ。THAADを在韓米軍に配備することは朴槿恵(パク・クネ)政権時代に決定した。決定にあたっては「北朝鮮の核とミサイルのみに対して運用される」と強調された。
しかし、中国はTHAADを「米国が中国を狙って韓国に配備した兵器システム」と理解しており、THAADの「Xバンドレーダー」が、中国東部と北東部地域の軍事活動の監視に使われるとみている。
このため中国は報復措置として、韓国からの輸入規制・非関税障壁・韓流排除・韓国企業の営業停止など、露骨な経済報復を行った。特にTHAAD配備基地を提供したロッテグループへの報復は辛らつを極め、同グループは中国から追い出された。
朴槿恵氏に代わり大統領となった文在寅氏は、中国寄りの姿勢を取り、環境影響評価が完了するまでTHAADの本格運用を先延ばしする方針を決めた。
文在寅政権は5年の任期中、環境影響評価の先延ばしを続け、THAADの配備は「臨時」という形にとどめ、正式配備とすることはなかった。
その後、尹錫悦大統領が就任し、2022年8月、文在寅政権時代に停滞していたTHAAD配備基地の一般環境影響評価を完了し、在韓米軍の任務遂行条件を保障し、THAAD配備基地を同月に正常化すると発表した。
遅々として進まなかった
環境影響評価
2019年2月、米国が環境影響評価に必要な事業計画書を提出したため、韓国政府は法律に基づき、政府、住民代表、民間の専門家で構成する評価委員会を立ち上げ、手続きを進めなければならなかった。しかし文在寅政権は、その最初の段階となる評価協議会の発足も、最後まで先送りした。この点について与党「国民の力」は「青瓦台の圧力があった」とにらんでいる。
文在寅政権は住民が反対して「環境影響評価が遅れた」と説明していたが、実際は中国に配慮するためだった。今回公表された国防部の文書に「(THAAD配備についての)反対集会の参加人数が減ったが、今後『口実』を作れば(反対集会への)大規模な人員動員が可能だ」と記載されていたことから、住民の反対はTHAAD正式配備を事実上回避するためのカモフラージュであったことがわかる。
国防部の文書には、国防部、外交部、環境部の担当者は2019年12月3日に行われた青瓦台(大統領府)国家安保室の会議で「中国は環境影響評価の手続きに入ることをTHAAD正式配備と見なし、強く反発するだろう」「(3週間後に予定されている文在寅大統領訪中への)影響は避けられない」と結論付けた。
その後も、習近平国家主席の訪韓、韓国での総選挙に及ぼす影響など、次々に理由を見つけては評価協議会の構成し、発足させることを遅らせ、2020年4月の総選挙で「共に民主党」が圧勝すると、関連議論は中断され、同年6月の韓米実務チームの会議で韓国側は「後続手続きの開始および終了時点を特定できない」と米側に伝えたという事実も、今回の報告書を通じて確認された。