バイデン政権は7月7日、不発弾が民間人にも危害を及ぼしかねないと言われる殺傷力の高いクラスター弾をウクライナに供与すると発表し、NATO加盟国からも疑問視する声が上がっている。米国の対応に非難の声が上がる一方で、今年3月には、2016年に国交を断絶したサウジアラビアとイランが、なんと中国の仲介により関係を正常化したと発表した。今、世界において本当に恐れるべきは、はたしてアメリカなのか中国なのか。『アジアを生きる』(集英社新書)を上梓(じょうし)した政治学者の姜尚中氏に聞いた。(聞き手/ビデオジャーナリスト 長野 光)
韓国元大統領が語った
金正日総書記の印象
――2000年6月に、分断後初めての南北首脳会談が実現し、金大中(キム・デジュン)大統領と金正日(キム・ジョンイル)総書記が握手を交わした瞬間には、思わず「歓声を上げた」と書かれています。このとき何をお感じになり、どのような未来をイメージされたのか教えてください。
金大中さんが大統領をおやめになった時に、「金正日はどんな人でしたか」と個人的に質問しました。金大中さんはしばらくじっと考え、「クレバーな男だった」と言いました。この「クレバー」という言葉には、いろんな意味がこめられていたと思います。
そして驚いたのは、その後に金大中さんが日本語で吐き捨てるように「彼は独裁者だった」と付け加えたことです。金大中さんが私に言いたかったことは、独裁者とも話をしないと戦争になってしまうということです。
私は2人が握手を交わしたから、すぐに南北の統一が実現するなどとは考えませんでした。しかし「戦争の時代はもう来ないだろう」とは思いました。そして、他の国からそう言われるのではなく、自分たちでそれを成し遂げたことに感無量でした。
じつはあの時、金正日が出てきて会談に応じるかどうか、金大中さんは平壌に着くまで分からなくて不安だったそうです。しかし、到着したら突然歓声が上がった。それで金正日が来たことを直感したそうです。日本人の感覚からすれば「あんな独裁者に会いに行くなんて」と思う人も多いかもしれませんが、「では戦争でいいですか」ということです。
これは現在のプーチンに対する対応でも同じことが言えます。ロシアとウクライナは戦争をしている。でも、私たちが戦争しているわけではない。だったら、戦争をやめさせるためにもプーチンと会えばいい。なぜ「プーチンと会ったらロシアを利する」という考えになってしまうのか。アメリカの大統領だってゼレンスキーに会えるならば、プーチンとも会えばいい。