中国の秦剛外相中国の外相を務めた秦剛氏 Photo:Michele Tantussi/gettyimages

「消えてしまった、とうとう……」中国ウオッチャー界隈は久しぶりに「中国っぽい」話題で盛り上がっている。昨年12月に指名されたばかりの外相・秦剛が、7月25日に罷免されたのだ。彼は今年6月25日を最後に表舞台に姿を現しておらず、世界中のメディアが「秦剛はどこに?」というタイトルで記事を掲げ、ミステリーを解析しようと躍起になっていたのである。1カ月姿をくらました上に首を切られた外相・秦剛は、ある有名人と不倫していたといううわさも。秦剛は不倫でクビになったのか?それとも……。(フリーライター ふるまいよしこ)

この10年間の中国で最も有望
強面な“戦狼”外交官

 秦剛は1966年生まれで57歳。中国が外交部(外務省に相当)に報道官制度を導入した2000年代初めから、報道官として外交部の表に立つようになった。途中、英国大使館に公使として赴任した期間に1年ほど姿を見せなくなったが、すぐにまた報道官に復帰、ほぼ前後して10年前後、外交部定例記者会見の「顔」を務めた。

 報道官としてはもともと強面のタイプだったが、英国から戻ってきてから攻撃的な外交スタイルの報道官としてツノを出し始める。ある意味、習近平政権以降本格化した「戦狼外交」初期の代表的人物である。

 その後、“戦狼ぶり”が認められたのか、順調に外交部副部長(副大臣)に昇進し、儀典担当を務めた後、2021年に米国大使として赴任。報道官という「顔」を務め、英国から米国へと主要大国の大使館を転「戦」したあたり、ここ10年間で最も有望な外交官であることを印象付けた。

 しかし、米国赴任当時はコロナの真っ最中であり、米国による中国の封じ込め作戦がどんどん進む中、目立った活躍をする場に恵まれないまま、昨年末に10年近く外交部長(外相)を務めてきた王毅氏に代わり、新外相に指名された。米国大使就任から外相になるまでわずか17カ月、一部メディアでは「習近平の覚えめでたい人物」とも形容されていた。

 だがその秦剛が、6月25日に海外からの賓客を迎えた公式の場に現れたのを最後に完全に表舞台から姿を消してしまったのだ。消息を断ったまま1カ月がたち、7月25日に突然の解任発表。後任者は新たに任命されるのではなく、彼の前任者である王毅が、再び外相を務めることになった。