ゴリラの研究者として有名な京都大学の山極寿一教授(現在 総合地球環境学研究所所長)。彼は2014年10月から6年間、同大学の総長を務めた。そこで、霊長類学の大家は大学経営の不条理な真実に次々と直面した。政治家と官僚の都合が優先される教育のためにならない国立大学の法人化、海外の戦略に翻弄(ほんろう)される世界大学ランキングというわな、日本の大学は間違った目標と理不尽なシステムによってこのまま弱体化の一途をたどるのか。昨年11月に著書『京大というジャングルでゴリラ学者が考えたこと』を上梓した山極寿一氏に話を聞いた。(聞き手/長野 光、シード・プランニング研究員)

※記事の最後に山極寿一氏の動画インタビューが掲載されていますので、ぜひご覧ください。

国立大学が危ない
政府主導の大学改革

――国立大学は2004年から法人化され、毎年1~1.3%ずつ運営費交付金が削減されるようになりました。大学の法人化にはどのような問題があるのでしょうか?

山極寿一氏総合地球環境学研究所所長の山極寿一氏(朝日新聞社撮影)

 大学の法人化は、当初、資金を自由に使い、人事も組織改編も大学側が自らの構想のもとに行うことができる、という話でした。

 法人化は、国家の財政から国立大学の負担をなるべく切り離そうとする政策でした。法人化が始まってすぐに、運営費交付金(文部科学省から国立大学に毎年支給される)が毎年削減され始めたことがその証左です。衆参両院とも「十分な資金を保証すること」と付帯決議が行われているにもかかわらず、運営費交付金の削減は約束違反だとしか言いようがありません。

 しかも、物価や光熱費や自然科学系が必要とする国際ジャーナルの購読費なども、年々増加しています。そういう状況で運営費交付金を削られたら、大学は人件費を削るしかありません。それが私が総長に就任した2014年頃の状況です。

 政府が当初、法人化の目的として掲げたことがまったく達成できない状況に追いやられていました。大学が自律できるような財政的支援はなかったのです。

 法人化が大学の自律や自由な研究を目標にするのであれば、日本はドイツや英国のようにもっと資金援助する必要がありました。ドイツなどの成功例を日本は全然参照せず、「大学は勝手にやりなさい。でも資金は削減します」というのが日本のやり方です。

 しかも、運営費交付金を削減した代わりに配分されるようになった補助金を通して、国は政府主導の大学改革を同時にやらなければ補助金を取れないような制度を作りました。

 政府は大学評価を振りかざして国立大学の活動をコントロールし始め、大学をどんどん政府の方針に従わせようとしたわけです。自由でも何でもありません。ソ連や中国が行っている計画経済みたいな話になりますよね。