サウジアラビアとイランの断絶を
中国の仲介で修復できた理由
――日本では「中国脅威論」が大きくなっていますが、これと矛盾した動きとして、中国の仲介により、スンニ派の総本山ともいうべきサウジアラビアと、シーア派の最大の拠点であるイランが関係の正常化に向けて動き出したことについて、書籍で書かれています。もし、中国がロシアとウクライナを停戦に導くことができたら、それは何を意味すると思いますか?
最近私が注目しているのが、アメリカの経済学者ジェフリー・サックスです。彼は旧ソ連を含む複数の国の経済アドバイザーを務めた経験があり、同時に国連の開発アドバイザーでもあります。彼は先日、ニューヨーク・タイムズに即時停戦論を出しました。
そして、もう1人注目しているのがシカゴ大学政治学部教授のジョン・ミアシャイマーです。彼は10年前から一貫して「ロシアをこれ以上追い詰めると大変なことになる」と言ってきた。彼はアメリカの外交政策が冷戦崩壊後になぜ失敗してきたのか、ということを「ナショナリズム」「リベラリズム」「リアリズム」という三つの観点から説明している。
彼はアメリカの覇権を「リベラル・ヘゲモニー」と呼びます。これは分かりやすく言うと、自分の似姿に世界を作り変えようという試みです。こういう考え方が冷戦崩壊後いたる所で失敗してきた。これはある種のアイデアリズム(理想主義)です。しかし、リアリズムの観点から見たら、もっと異なるやり方が見えてくる。
さらに、ネオコンさえアメリカのリベラリズムの一変種に過ぎないと彼は言います。これは、アメリカ型のリベラルなデモクラシーに作り替えていくことで、世界は平和になるし、アメリカも安全になるという考え方です。アメリカ各地のシンクタンクや国家機関にそういう考え方の人が多数いる。しかし、この状態が続けば、リベラル・ヘゲモニーは徐々に崩壊していくとミアシャイマーは考えます。
なぜ中国にサウジアラビアとイランの仲介ができるのかというと、中国がある意味ではリアリズムに立っているからです。主権国家の内部に人権弾圧があったり、不正があったりするときに、場合によっては強引に介入するのがアメリカ型リベラル・ヘゲモニーの考え方です。しかし、中国はそういうことはしない。
今の世界には武力を持った国家以上の枠組みはありません。そうであれば、それぞれの主権国家の持っている不可分性と一体性を認めざるを得ない。認めた上でどのように国家間の関係をハンドリングできるか、中国が今やっていることはこれです。だから、中東の国々がそれを受け入れる態度を見せる。
ロシアとウクライナに対しても、そういった姿勢で妥協点を見いだすことができるかもしれない。これはつまり、リベラル・ヘゲモニーが凋落(ちょうらく)するということです。そして、リベラル・ヘゲモニーは、世界にあるおよそ800の米軍基地によって成り立っている面もある。しかし、それが今世界の舞台で実効性を持っていない。