翌日、残業時間の切り捨てがなくなったことをB課長から聞いたAは、モヤモヤした気持ちが晴れ、毎日バリバリと残業をこなしていたが……。

 8月初旬のある日、Aが出社すると、B課長が寄ってきて言った。

「実は急に製造Aチームの課長が8月末で退職することになり、9月から私が後任することが決まったよ」
「でも課長がいなくなったら、次の総務課長は誰になるんですか?」
「C社長には君を推挙し、既に了承は取ってあるから、あとは頼むよ」
「冗談でしょ? 自分は入社してまだ2カ月ですよ。課長の後釜なんて無理無理」

 Aは右手をヒラヒラと左右に振り、拒否した。しかしB課長は、

「そんなことはない。他のメンバーは2人とも20代後半だし、前職から通算すると総務マンとしての経験は君の方が長いしスキルも勝っている」

 と言い、Aに申し出を受けるように促した。

「しかし……」
「尻込みする気持ちは分かるけど、大丈夫。ここだけの話だけど、総務課長ってそんなに難しい仕事じゃないんだよ。だって社長はワンマンで、細かいことまで全部自分で決めないと気が済まないから、あとは指示通りにすればいいだけだもの。早速明日から引き継ぎするのでよろしくね!」
「はあ……」

 急な話に驚くAを尻目に、B課長は書類の整理を始めた。

「あっ、言い忘れてだけど、総務課長は管理職手当が出る代わりに残業代は出ないからね。だから君は残業しないようにうまくやってくれ。C社長から聞いたけど、もうすぐパート社員が2人ここに来るそうだから、ジャンジャン仕事振っちゃいな」

 その言葉に思わずズッコケてしまったAだった。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため個人名は全て仮名とし、一部を脚色しています。