「就業規則で、1時間未満の
残業手当は切り捨て」は通用するか?
1時間後、C社長との話を終えたD社労士は、あいさつがてらB課長の元に顔を出した。2人はしばらく雑談をしていたが、D社労士が帰ろうとした頃を見計らってAが声を掛けた。
「あの……6月に入社したAと言います。少々お伺いしたいことがあります」
「どうしましたか?」
「今日給料日で、6月分の給料をもらいましたが、私の残業代が1日1時間以下の分がカットされています。この計算は正しいんでしょうか?」
D社労士がB課長に確認すると、Aの話通りで、C社長の指示通りに計算しているという。
その後、D社労士は再び社長室に戻った。
「あれ、Dさんどうしたの? まだ話があったっけ……」
C社長はけげんそうな顔をした。D社労士は
「残業代の計算方法を確認したいのです」
と言い、AとB課長から聞いた内容をそのまま伝えると、C社長は「その通りです」と認めた。D社労士は尋ねた。
「残業時間をカットすればその分残業代が減りますよね。これまで社員から苦情は出ませんでしたか?」
「はい。ウチの会社で残業があるのは原則製造部門だけで、業務の繁忙期に職長が部下に対して1時間単位で残業を指示します。残業時間が終わるとサッサと帰らせますので、問題はないはずです」
「じゃあ、総務課の残業に対してはどうですか? Aさんの例では、6月の勤務日は毎日1時間30分の残業をしていますが、30分を切り捨てて処理していますね」
「ああ……取引先の増加で総務課の仕事量が増えたので、昨年の秋から残業するようになったことは知っています。しかしそれでも残業代の計算方法は就業規則で定めているので、それに則って計算するのはダメなんですか?」
「はい。会社は従業員に対して労働した時間分の全額を賃金として支払う必要がありますが、残業時間も労働時間ですから当然対象になります。ですから残業代も1分単位で計算して支払うことになります。残業時間の切り捨ては労働基準法違反になるので注意してください」
C社長は不服そうな顔ををした。
「じゃあウチの就業規則で決まっている内容はどうなりますか?」
「甲社の就業規則は、残業代の計算方法において法律の定めを下回った内容なので、その部分は無効になります。最低でも法律で定めた水準まで条件を引き上げるよう、すぐに変更が必要です」
・労働基準法第24条 一部抜粋
「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならない」
・労働基準法第37条 一部抜粋
「使用者が、労働時間を延長し又は休日に労働させた場合、その時間又はその日の労働について、それぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない」