残業手当の切り捨ては
労働基準法違反になる

「残業時間の切り捨ては労働基準法違反とのことですが、違反した場合、何か罰がありますか?」
「残業代の未払いは、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります」
「分かりました。会社としては法違反をするつもりはサラサラありません。総務課のメンバーの残業代は発生時までさかのぼって残業時間1分単位で再度計算し直し、差額を支払うことにします。ところで、残業代を計算するときに残業時間や残業代の端数処理にも決まりがありますか?」
「端数計算の処理は、次の3つの方法のいずれかなら認められます」

<事務処理を簡便にするために認められる端数処理の方法>
(1)1カ月当たりの時間外・休日・深夜労働の合計に1時間未満の端数が生じた場合、30分未満は切り捨て、30分以上は1時間に切り上げる
(2)1時間当たりの賃金額および割増賃金額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満は切り捨て、50銭以上は1円に切り上げる
(3)1カ月当たりの時間外・休日・深夜労働の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満は切り捨て、50銭以上は1円に切り上げる
(行政通達「基発第150号労働基準法関係解釈例規について」より)

 D社労士は更に続けた。

「その他に、例えば(1)は1時間未満の端数は1時間に切り上げる、(2)と(3)は1円未満の端数は1円に切り上げるとして従業員に有利な端数処理方法を行うのはOKです」
「ウチはどの方法で端数処理をしていたっけ……。後で調べてみます」
「端数処理の方法は、就業規則への明記が必要です。繰り返しになりますが、日ごとの残業時間に対して切り捨ての処理をすることは、従業員への不利益になるので認められません」

未払い残業代は、
退職した社員も対象になる

「もし、仮にですよ。差額の残業代を未払いのまま放っておいた場合、法律違反になる他に会社に不都合はありますか?」
「従業員から切り捨てた残業時間分の賃金支払いを求める訴えを起こされる可能性があります。未払い賃金に対する時効は3年で、訴えを起こされたら対処が大変です。甲社の場合、未払い残業代の対象が総務課のみで、発生から1年以内なので、早急に差額残業代を計算し支払うのがいいでしょう」
「それなら、次の給料日には支払うことにします。退職した2人のメンバーの未払い残業代はどうしようかなあ……」
「未払い残業代は、既に会社を退職した社員も対象になります。退職した社員が訴えを起こすこともあります。金額的にはそれほど多くないでしょうが、しっかり対処をしてください」

 D社労士のアドバイスを受けたC社長は、B課長に昨年10月分から発生したメンバー全員の残業代計算をやり直すように命じ、差額分を8月25日の給料日に支払うことにした。また、退職した2人分についても、本人の自宅に残業代の差額分を支払う旨の手紙を郵送し、指定された口座に振り込む手続きをすることにした。

 また、就業規則も法律に合うよう変更することをD社労士に依頼した。