ニューヨーク・ウォール街と星条旗写真はイメージです Photo:PIXTA

信用格付けサービス3位のフィッチによる米国債格下げは、想定の範囲だった。今回の格下げは、短期的にみると、日本株が下落するきっかけになったことは否めない。ただ、中長期的にみると、米国債の格下げが日本株の下落につながるかは不透明だ。むしろ、フィッチの判断は、投資家が主要国の物価や財政問題などを背景とする金利上昇のリスクを再確認・再評価するきっかけになった。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)

「米国債格下げ」のタイミングで長期金利が上昇の波紋

 8月1日、大手信用格付け会社のフィッチ・レーティングスは、米国債の格付けを最上位のAAA(トリプルエー)からAA+(ダブルエープラス)に引き下げた。見通しは「安定的」だ。

 既に、同じく有力格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、2011年に米国債をAA+に格下げしている。大手格付け会社のうち、AAA(Aaa)格はMoody’s(ムーディーズ)を残すのみだ。

 フィッチは格下げ要因として、主に三つを指摘した。(1)今後3年間での米財政の悪化懸念、(2)高水準かつ増加する公的債務、(3)債務上限を巡る政治対立の激化など債務管理体制の不安――だ。コロナ禍をきっかけに米国で財政支出圧力は強まった。フィッチの指摘は周知の事実ではある。

 注目すべきは、格下げとほぼ同じタイミングで、金利とリスク資産の関係に変化の兆しが表れたことだ。米国をはじめ各国で長期金利は上昇し、世界的に株価は下落した。その勢いが強まれば、世界経済は減速に向かうだろう。となると、新興国から資金を引き揚げる投資家も増えるはずだ。フィッチによる米国債の格下げは、予想外の形で世界経済の不安定さを増すことになるかもしれない。