金利と株式などリスク資産の関係に変化の兆し
理屈で考えると、財政支出の増加によって、長期、超長期の金利は上昇する。今回の格下げは、主要投資家がそうしたリスクを冷静に考える機会になった。
格下げとほぼ同じタイミングで、世界的に金利と株価の関係は徐々に変化し始めている。7月26日まで、ニューヨークダウ工業株30種平均株価は13連騰を記録していた。生成AIの登場が大きなインパクトとなり、IT産業への成長への期待が膨らんでいる。米連邦準備制度理事会(FRB)が、景気の減速に配慮して秋口にも利下げに転じるとの見方も高まった。米国の2年金利は低下し、株価上昇は勢いづいた。
他方、7月28日、日本銀行はイールドカーブ・コントロール(YCC)政策を修正し、10年金利の上限を1.0%に引き上げた。「米財務省が国債の発行を増やす」との見方も増えた。フィッチの米国債格付け判断を、見極めようとする警戒感も高まっただろう。一般的に信用格付け業者は見通しを修正した後、2カ月程度で新たな格付けを付与することが多い。
米国経済が過熱気味であることも、金利上昇の警戒感を高める要因になった。4~6月期、実質GDPの成長率は予想を上回った。物価安定のためにもFRBは金融引き締めを続けなければならない。8月に入ってからの世界的な株価下落は、金利上昇リスクに身構える投資家の増加に影響された部分が大きい。
8月10日時点で、ムーディーズは米国の信用格付け見通しを修正していない。ごく短期間で米国が最高位の格付けを失うことは考えづらい。また、世界の金融環境は緩和的な部分を残している。短期的には、世界の株価は相応の値動きを伴いつつ、高値圏を維持する可能性はある。
しかしその後、金融市場の不安定感は増すだろう。中期的には、米国の長期金利は上昇し、株や商業用不動産などの価格が下落する恐れがある。それが現実となれば、世界的にリスクを削減する投資家が増えるはずだ。