フィッチが格下げに踏み切った経緯と背景
振り返れば5月、フィッチは米国の信用格付けの見通しを「ネガティブ」(信用力は下向き)に修正していた。背景として、政府債務上限を巡る民主党と共和党の対立激化は大きかった。長期的な財政運営の不透明感は増し、米財務省は一部の公的年金基金の新規の投資をストップするなど臨時措置を取ったが、それは長く続けられる措置ではない。
期日までに、与野党が債務上限の引き上げなどに合意できないリスクもあった。長期的な財政運営の安定性、予見性、財政再建に向けた政治的リーダーシップへの不安などを背景に、フィッチは米国債の信用格付けを最上位のAAAから引き下げる可能性を示唆していた。
6月初旬、米上院は債務上限の効力を2025年1月まで停止する法案を可決した。前回のピンチ(11年)に比べれば幾分か時間はあったが、今回も米連邦政府は資金の枯渇を土壇場で回避した。
こうした背景もあり、フィッチが米国債の格付けを引き下げたことは、5月の見通し修正に沿ったものだった。大手の信用格付け業者が米国債を格下げするのは、今回が初めてではない。11年の債務上限問題では与野党が合意した後に、S&Pが米国の格付けをAA+へ1段階引き下げた。
S&Pは世界の信用格付けサービスの最大手である。米証券取引委員会(SEC)によると21年、世界全体の信用格付け(国債、非国債、証券化商品などが対象)のうちS&Pの割合が50.4%、ムーディーズが31.6%、フィッチが12.4%だった。3社の中でフィッチの規模は小さく、格下げのインパクトも限られる。残るは、ムーディーズが米国の格付けをどうするかだ。8月10日時点で、ムーディーズは米国債をAaa格(S&PなどのAAAと同じ)で維持している。
5月の見通し修正、その後の米債務上限問題の推移を踏まえると、フィッチによる格下げは想定の範囲だった。今回の格下げは、短期的にみると、日本株が下落するきっかけになったことは否めない。ただ、中長期的にみると、米国債の格下げが日本株の下落につながるかは不透明だ。