徐々に進む金利上昇リスクの再確認

 むしろ、フィッチが米国債の格下げを発表したことは、投資家が主要国の物価や財政問題などを背景とする金利上昇のリスクを再確認・再評価するきっかけになった。その点を冷静に考えることが重要だ。

 11年にS&Pが米国債を格下げした時と今回を比べると、世界経済の環境は異なる。リーマン・ショック後、日米欧の中央銀行は金融緩和を強化した。世界経済の回復ペースは緩慢であり、物価も上昇しづらかった。「中央銀行が景気減速に配慮して金融緩和を強化する」と予想する投資家は増えた。こうした認識が、世界中の投資家の記憶に強く刷り込まれた。

 ユーロ圏やわが国ではマイナス金利政策も実施され、金融緩和は強化された。「低金利環境は続くはず」といった主要投資家の思い込みは強まった。主要国の財政悪化に対する投資家の警戒感、関心は薄れた。

 しかし、20年以降の世界はコロナ禍をきっかけに一変した。各国で財政支出は増大し、物価は上昇。短中期を中心に金利も上昇した。

 世界的に現金の給付や、失業保険の特例措置が実施された。現在、米国では家計が過剰な貯蓄を抱え消費は減少していない。旺盛な需要を背景に、インフレ率は2%を上回っている。22年3月以降は急速に利上げが進み、短中期を中心に金利は上昇した。それでも株価は高い。大規模な財政支出により、経済はゆがんだ。

 ウクライナ紛争も、財政支出圧力を高めた。1970年代半ばにベトナム戦争が終結して以来、約50年ぶりに、かつての東西陣営を巻き込んだ戦争が長期化している。

 ウクライナ紛争が起きて以降、各国で国防関連の支出は増えた。ドイツは国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上に引き上げた。台湾を取り巻く危機意識に対応するために、日米欧の政府は産業政策の方針も転換した。戦略物資として重要性が高まる半導体の自国内生産を増やすために、補助金を積み増す動きが顕著になっている。