国有企業はトランプのジョーカー
数十年にわたり中国の金融業務に従事した日本人のG氏は「負債比率の目標達成が難しいときは、関連する事業体から資産を持ってきて膨らませ、負債を小さく見せることができます」と“調整”の可能性をほのめかす。先進国では問題となるやり方だが、中国の国有企業には “異次元の標準”があることがうかがえる。
「国有企業とは、何でもできる“ジョーカー”のような存在。必要とあれば、どんな手も駆使します。ルールを変えることだってできてしまうのです」(同)
確かに“ジョーカー”には隠れた負債があるはずだが、地元経済を支える中心的存在であることから、「息の根は止めない」という考えが中国政府にはあるのかもしれない。
振り返れば2010年代中盤、中国では赤字の国有企業を中心とするゾンビ企業の全面的なリストラ策が話題になった。中国の経済学者などからは、政府の介入を減らし、市場メカニズムの中で「ゾンビ企業」を市場から排除すべきという意見も出されたが、国有企業の実態に詳しいG氏は「むしろ完全に殺さないのが中国政府のやり方」だと言う。
「国有企業の政府による救済は『ゾンビ企業を延命させるだけ』といったマイナスの指摘もありますが、中国の国有企業は“ジョーカー”ですから息を吹き返すことができます。ウクライナ戦争の復興に大量の物資を供給できるのは中国だけであり、たとえ国有企業の古い設備であっても、生産さえできれば供給は無限に広がります。国有企業は虎視眈々と戦後復興に復活を絡めようとしているのではないでしょうか。このような戦略は中国の古典にも存在します」
国有企業はいまだ謎のベールに包まれており、もはや日本人の想像も及ばない対象でもある。その“謎のベール”の内側で、強大化を目指し、「フォーチュン・グローバル500」入りをバネに世界進出を本格化させる国有企業。復興需要に沸くウクライナ戦争終結時、躍進は最高潮に達し、ランキングは国有企業だらけになっているかもしれない。