北は山形から南はニュージーランドまで!
他の地域の人たちと本音で議論する「旅する公務員」

 視野を広げるための活動の一つが、2022年8月にスタートした「旅する公務員」実証事業だ。職員が交流のある国内外の自治体でテレワークを実施。ボトルネックを洗い出すとともに、自治体間の交流を通して地域課題の解決を目指す。

図_「旅する公務員」の目的実態を知るには、A面、B面だけでなく、ボーナストラックが重要だ 提供:磐梯町 拡大画像表示

「自治体って、横のつながりが薄いんです。例えば、磐梯町は4つの町村から成る耶麻郡に属していますが、人事交流こそあれど、意見交換をしたり、プロジェクトを共にしたりといったことは少なかったと思います。でも、どの自治体も抱えている課題はほぼ同じです。悩みを共有し、みんなで乗り越えていくのが今の時代のやり方でしょう。私が他の自治体に行くと成功事例ばかり言いたくなってしまうのですが、小野さんは『いやいや、うちも大変なんだ』と裏事情ばかり話してしまう。でも、カッコつけずに本音で議論することが、今の自治体にとって一番大事なんだと思います」(佐藤さん)

 記念すべき最初のテレワークは、失敗に終わった。

「旅する公務員として他の自治体を訪れる前に、磐梯町の出先施設で初めてのテレワークに挑戦してみたんです。ところが、仮想デスクトップを使って役場の外から役場のPCを動かせるようにしたところで、オンライン会議のやり方も分からない、メールを印刷して回覧するような昔ながらの仕事の仕方をしているうちは、テレワークなんて夢のまた夢だと悟りました。ITに詳しい人は、『いくらアナログな職場だって、ITツールを与えれば自然と使うようになる。だって便利なんだから』と言うかもしれませんが、そうじゃないんです。これまでの常識を変え、職員のマインドを変えなければ、100年たっても延々と明治時代のやり方で業務を続けますよ。その証拠に、私はこのとき、手持ち無沙汰で2日間ずっと本を読んで過ごしました」(小野さん)

 磐梯町がDX先進地域として注目されるようになった今では、北は山形県、南はニュージーランドまで足を運び、テレワークで業務を行いつつ、自治体職員や地域住民との交流を深めている。

ニュージーランド日本を飛び出し、ニュージーランドでもITツールの有用性とテレワークの可能性を検証 提供:磐梯町

「ずっと磐梯町にいると、磐梯町の行政サービスの品質が当たり前になって、他と比べてどうなのか分からなくなってしまうんです。その状態で、町民にとって本当にいい行政サービスを提供できるはずがありません。ある自治体では、子育て世帯の生活困窮層が5割近くにのぼっていました。その人たちがどんな生活をし、どんなケアを必要としていて、行政がどう働きかければ幸せに暮らせるのか、さまざまな角度から見せてもらいました。翻って、磐梯町の町民は幸せなのか、より深く考えるようになりました」(小野さん)