紙ではなくデジタル。お得なスマホ決済で
町民のデジタルリテラシーを底上げ
リオン・ドール開店直後の2021年7月、磐梯町はブロックチェーン技術を活用した町民向けスマホ決済型地域振興券「デジタルとくとく商品券」の販売を開始した。全国の多くの自治体が、地域経済活性化のために紙のプレミアム商品券を発行している。しかし、発券や販売店との精算業務にかかるコストがボトルネックとなって、思ったような経済効果につながらないケースもあるという。デジタル化によってこれらのコストを削減できれば、より大きな成果が期待できる。
企画当初は、高齢者の多い磐梯町でどこまで浸透するのか懸念もあったが、紙の商品券よりお得に買い物できるようにしたことが功を奏してか、即日完売。多くの町民が利用したという。
「デジタルとくとく商品券」の狙いは、地域経済活性化だけではない。実は、エストニアやスウェーデンといったデジタル先進国では、住民のデジタルリテラシーを上げるための教育や活用インセンティブの整備が盛んに行われている。磐梯町も同様に、まずは町民や販売店にデジタルの良さを実感してもらい、活用意欲やリテラシーを底上げすることから始めたのだ。
町にスマホ決済が根付き始めた2022年7月には、町民以外も使える県内初のデジタル通貨「ばんだいコイン」をリリース。リオン・ドールをはじめ、町内の加盟店で利用できるようにした。1年でユーザー数は1200人超、そのうち約半数が町民だという。人口約3300人の磐梯町にとって、順調な滑り出しと言えるのではないだろうか。
「ただ現金をデジタル通貨に置き換えただけでは、意味がありません。重要なのは、町外の人が磐梯町で買いたいと思えるような魅力づくりです。同時に町内コミュニティの活性化にも活用したいです。一部はすでに始めていますが、町の健康づくり事業やリサイクル事業に参加すると特典が付くとか、物々交換的にボランティアをし合うとか、通貨以上の価値、人と人とのつながりや生きがいを感じられるような価値を生み出せたらと考えています」(小野さん)
2021年10月には、町内全ての公立保育・教育施設にコミュニケーションアプリ「コドモン」を導入。紙の連絡帳やプリントで行っていた保護者とのコミュニケーションをスマホで完結できるようにした。
「職員と保護者の負担軽減はもちろん、スマホアプリだから、離れて暮らすおじいちゃん、おばあちゃんにも孫の様子を写真付きで共有できる。とても喜ばれています」(佐藤さん)
「デジタルは人と人とを分断する邪悪なツール――3年前、私はそう言って佐藤町長がやろうとしているデジタル変革に反対しました。でも今は、人と人、町民と役場をつなげることがデジタルの本質だと理解しています。もっと町民の求めるサービスを提供できる役場にしていきたい。視野を広げ、ただ粛々と前例にならう役場の慣習を壊していきたいです」(小野さん)