高齢化が進み、IT化が遅れていた磐梯町が
リープフロッグ的に発展した

 磐梯町が面白いのは、高齢化率約38%(全国平均は28%)、都市部と比べてIT化にかなりの遅れをとっていたにもかかわらず、いわゆるリープフロッグ的(新しい技術やサービスが、先進地域の技術進展プロセスを飛び越えて一気に広まること)に、ITインフラの整備やデジタル化が進んでいる点だ。

 前編では、役場内の業務ネットワークをクローズドなLGWAN(総合行政ネットワーク)からインターネット接続系にシフトし、クラウド活用を進めるとともに、近年トレンドでもあるゼロトラストの概念を取り入れたセキュリティ対策を実装。年間数千万円の経費節減を実現したと紹介した。

 他にも、職員のオンライン会議は当たり前。議会も一部オンラインで実施している。また、職員のIT試験受験料を公費で負担して自己研鑽を推奨。これまでITとは無縁だった職員たちが、ITパスポート試験や情報セキュリティマネジメント試験に挑戦している。

2021年6月が転換点
磐梯町に念願のスーパーがやってきた!

 町の景色も変わり始めている。2021年6月、磐梯町は、数年前に廃業したショッピングセンターの跡地を買い取り、スーパーのリオン・ドールを誘致した。町にスーパーがないことは切実な課題だった。特に冬場は、雪道を隣町のスーパーまで運転しなければならない。運転免許を返納した高齢者からは「磐梯町駅まで30分歩いて電車に乗って会津若松市のスーパーに行き、電車に乗ってまた30分歩いて帰る。何とかしてほしい」という声が上がっていた。リオン・ドールのオープンは、町民の悲願達成と言っても過言ではない。

「磐梯町は町民の皆さんの顔が見えるので、みんなが何に困っていて、どうすれば幸せになれるのか分かるんです」(佐藤さん)

磐梯町 町長 佐藤淳一さん磐梯町 町長 佐藤淳一さん Photo by M.S.

 一瞬、「これってDXの取材だったよな」という考えがよぎる。それこそデジタルに毒された人間の発想だ。磐梯町総合計画に刻まれた町の将来像「自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくり」の視点に立てば、スーパーの誘致もDXも目的は同じ。何もかもが揃った盤石な社会基盤の上でDXについて考えられる都市部とは、スタート地点が違うのだ。逆に、既存の資産にとらわれ過ぎず、始めからリアルとデジタルを融合して考えられることが、磐梯町の急速な進展につながっているのかもしれない。