「だから、君は新規事業だけをやっているんだから、それが同じところだろう。そう思えなくても、そう思うんだ。すべて共通だと思えば、やがて、本当に共通項が見えてくる。そうすることで、起業専業企業としての勝ち戦のポイントを見極めていくんだ」
そのときは、「はい、わかりました」とは言いつつも、心の奥底では「やっぱり1つのことをやっているとは思えない」と困惑したが、それでもエムアウトの社員たちは皆、連続起業・同時起業を繰り返し、失敗が重なったときには、「なぜこんなにも失敗ばかりするのだろうプロジェクト」や、たまにうまくいったときには、「なぜ今回はうまくいったのだろうプロジェクト」というような、組織的に知見を蓄積していくプロジェクトを立ち上げて、「型化」に邁進(まいしん)したのである。
そういう意図でやっていたので、何度失敗しても田口さんからは、「いくら損したと思っているんだ」という叱責(しっせき)を受けることはなかった。
しかし代わりに、「この失敗で何がわかって、まだわかっていないことは何だ」「次、どうすればうまくいくのか考えろ」と徹底的に詰められて、「よし、次行け」と言われ続ける。
オーナー社長に「お前のせいで、なんぼ損させられたと思っているんだ」という責め方をされたら、サラリーマンとしては責任の取りようのない話で、「じゃあ、止(や)めます」とも言えるのだが、田口さんのように、「失敗しても、絶対に止まるな」「次はどうするんだ」と詰められると、前進するしかなくなる。
私としては、失敗するたびに「ああ、またダメだった」と落ち込むのだが、こちらが意気消沈していてもお構いなしに、「その失敗で得た学びを、次に生かせ」とやられるので、ある意味では責任を追及されるよりキツいものがあった。
しかしながら、トップがこういうマインドでいてくれたからこそ、私は20年間で17回もバッターボックスに立たせてもらい、負け越しながらも、5つの事業を生み出すことができたといえる。
田口さんの新規事業に対する経営感覚や忍耐力というのは、当時、一介のサラリーマンだった私にはまったく理解が及ばなかったが、連続で失敗して数億円の資金を溶かした私に、落ち着いた様子で「じゃあ、次に行け」と言ってくれたその懐(ふところ)の深さ、器の大きさが、いまになって身に染みるほどわかるようになった。
本当に、アタマが上がらない、いまの私を形成する一生の恩人である。