印刷業界に革新を起こしたECサイト「ラクスル」は、なぜ成功したのでしょうか? 本稿では、「ラクスル」の創業メンバーで事業立ち上げのプロである守屋実氏が、事業成功の秘訣を伝授します。
ニュービジネスが業界を席巻する
「新規事業は十中八九うまくいかない」
「どうすれば確実に事業を生み出すことができるのか」
本稿はこうした悩みをもつ経営者のために、新規事業を成功に導く経営法をご教示するものである。現業の儲けが出ているうちに新しい事業を生み出し、次の収益の柱をつくる。さらにいえば、収益の柱を複数つくる。
本業が未来永劫(みらいえいごう)ずっと安泰である、ということが稀(まれ)である以上、事業の創出は、企業が高収益を維持しながら、永続的に成長発展していくために、なんとしても成し遂げなければならない経営課題だ。
とかく、いまのように変化のスピードが早い時代においては、同じマーケット・同じ顧客に、同じ商品を同じ値段で売り続けることは不可能に近い。私たちを取り巻く環境は劇的に進化し、環境が変われば顧客の求めるものは変わっていくからだ。
たとえば、インターネットで簡単にチラシ、パンフレット、挨拶状、名刺などの印刷物を発注でき、所定の場所に届けてくれる印刷ECサイトの台頭がある。「少ない部数でも、安く短納期で印刷したい」という企業や個人のニーズをつかみ、従来のように営業マンを介すことなく、ネット上で取引ができる印刷ECサイトはこの10年であっという間に普及した。
なぜ、わざわざ「印刷ECサイト」を例として挙げたかというと、じつは、私は「ラクスル」というネット印刷スタートアップの創業メンバーとして、印刷市場の急激な様変わりを体感してきたからだ。
ラクスルは、2009年の創業から9年でマザーズ(現グロース)上場、その翌年には東証一部(現プライム)に市場を変更、累計のユーザー数は200万を超えている。ラクスルのビジネスモデルの最大のポイントは、世の中にあるたくさんの印刷会社を束ね、インターネット上のプラットフォームで印刷したい人との最適なマッチングを実現したことにある。
ラクスルが誕生する前の印刷業界は、6兆円の巨大市場の約半分を大手2社が押さえ、残りの半分をその他の約3万社の印刷会社で奪い合っている状態だった。また、仕事が1社で完結せずに、大手から1次下請け、2次下請け、3次下請けと流れて、少しずつマージンが入る多重下請け構造が存在していた。