「社内起業の99%は同じ失敗」30年で50案件に参画“新規事業のプロ”が断じる原因とは写真はイメージです Photo:PIXTA

「なぜわが社の新規事業は失敗するのか」。そもそも、新規事業は失敗が当たり前なのです。とはいえ、あきらめてはいけません。イノベーションの芽を育てるには秘訣がありました。印刷ECサイトの創業メンバーで新規事業のプロである守屋実氏が、成功するためのポイントをお伝えします。

※本稿は、守屋 実『新規事業を必ず生み出す経営』(日本経営合理化協会出版局)の一部を抜粋・編集したものです。

新規事業の量稽古で得たもの

 ところで、サラリーマンとして2社20年にわたりずっと新規事業だけをやっていたというのは、かなり珍しいキャリアと思われるだろう。これはすべて、オーナー社長である田口さんの考えによるものだ。

 ミスミは「機械工業系の専門商社」という強靭(きょうじん)な本業がある会社だが、私が入社した1992年当時、顧客である国内の工場が製造コスト削減のために東南アジアにどんどん出ていったため、本業の周辺領域ではない「飛び地」で事業を興そうという戦略があった。

 そこで、新市場部市場開発課というセクションが新たに設けられ、右も左もわからない新入社員の私もメンバーとして放り込まれたのだが、田口さんのこんな考えによって、私は新規事業だけを連続してやることになった。

 田口さんいわく、

「わが国には、経理のプロや法務のプロはいる。弁護士が弁護がうまいのは、弁護ばかりやっているからだ。ひるがえって、わが国の新規事業をみると、うまくいくとその事業の責任者になってしまい、片や、2回くらい失敗すると二度とアサイン(任命)されなくなる。だからわが国の新規事業はすべからく初めての人間、素人がやっていて、同じ間違いが繰り返されている。こんな非効率ではダメだ。その非効率から脱して再現性をもつために、君には延々と新規事業を担ってもらう」。

 かくして私は、田口さんのもとで膨大な失敗を重ねながらも、新規事業の成功の再現性を獲得するために、新規事業だけに邁進(まいしん)することになったのである。ちなみに私はこれを、新規事業の“量稽古”と呼んでいるが、量稽古を重ねていくうちに初見でも既視感があるというか、だんだん「初めて聞いた」という事業に出会わなくなってきた。

 そうすると、どんな事業に対しても、

「だいたい、こんな感じだな」
「躓(つまず)くとすれば、ココとココだな」
「この壁を突破したら、あとは全力でアクセルだな」

 というように、大まかなロードマップを最初に描けるようになったのである。

 それは、何度も裁判を経験してきた弁護士が、ちょっと相談を受ければ「ああ、このケースだとこんな感じだな。結局ここが論点になって最終的にちょっと苦しいかもしれない」とわかるような、そんな感じである。