女性を“孤立”させないために人事部が心がけること

 人的資本経営における女性活躍推進のために、いま改めて、企業経営層や人事部は、何を心がけ、どのような行動をとっていくべきか――最後に、野村さんに単刀直入に尋ねた。

野村 大切なのは、女性を孤立させないこと。まだまだ、世の中的には、女性が上のポジションに就くと孤立してしまいがちです。役員で女性1人とか、部長で女性1人とか……上の階層になればなるほど、同じポストの女性が社内には少なくなります。ですから、社外で、似た境遇の女性に出会い、悩みを共有することに価値があります。経営層や人事部が、そうした社外ネットワークづくりの支援のために、社外研修などに女性を送り出すことはとても有効です。女性を対象にした管理職候補者向け研修や部課長向け研修などを実施している自治体もありますから、そうしたものをどんどん利用することをお勧めします。

 野村さんの最近刊『市川房枝、そこから続く「長い列」 参政権からジェンダー平等まで(*11)』には、婦人参政権を実現した市川房枝さんの運動論のセオリーが書かれている。そのセオリーは、企業・団体における女性活躍推進にもあてはまるものだ。

*11 野村浩子著『市川房枝、そこから続く「長い列」 参政権からジェンダー平等まで』(亜紀書房 2023年4月刊)

野村 たとえば、課題を「データ」で語ること、「外圧」をうまく使って仕組みを変えていくこと、女性たちが「連携」して個人の力を束ねて波をつくる――そうした方法は小さな組織を変えていくうえでも応用できます。

 女性の力をもっと生かすべきと「あるべき論」を語るだけではなく、データをもって、女性活躍の現状を可視化して課題を共有することは重要です。たとえば、女性社員が3、4割を占めるにもかかわらず、女性管理職が8%くらいだったとします。それを自然増に任せておいたときに、役員クラスまで男女同水準となるのに、あと何年かかるのかを試算してみてはどうでしょう。40年か、50年か、それまで企業は男性中心型組織で成長を続けることができるでしょうか。

「外圧」を使うとは、国際社会や海外機関投資家など海外からの圧力を受けて、女性活躍を進めるのみならず、消費者や求職者から選ばれる企業であるためにも、女性活躍は必須であると、外からの評価をテコに組織を変えていこうというものです。

 女性たちが「連携」して、声を上げていくことも大切です。社内で女性の声を束ねる、社外の女性たちともつながって波をつくる、個々人は微力であっても無力ではない、「個」を束ねると大きな力になります。

 市川房枝さんは、個人の力を束ねて社会を変革していく達人でした。その運動論は現在(いま)に生きるものだと思います。