バスケ日本代表ホーバス監督の異色すぎる経歴、トヨタ社員→NBA選手→IT副社長…FBI目指した過去もPhoto:Takashi Aoyama/gettyimages

男子バスケットボール日本代表が快挙を達成した。先日のW杯で史上初の3勝をマークし、従来の「対欧州勢で全敗、五輪を含めた世界大会で11連敗」という不名誉な記録に終止符を打った。そして、アジア勢の最上位に与えられるパリ五輪出場権を獲得したのだ。代表チームを率いるのは元NBA選手のトム・ホーバス氏。同氏の指導力の高さは折り紙付きだが、選手だけでなく「会社員」の経験があるという事実はあまり知られていない。その異色の経歴と、独自のチームビルディングに迫った。(ノンフィクションライター 藤江直人)

苦しい戦いを制し
不名誉な記録を止めた

 ドイツとの初戦を63-81で落とした時点で、男子バスケットボール日本代表にはネガティブな記録がつきまとっていた。W杯での欧州勢との対戦成績は11戦全敗。五輪を含めた世界大会での連敗も「11」に伸びた。

 しかし、代表選手は誰一人として下を向かなかった。それどころか、NBAプレーヤーの渡邊雄太(フェニックス・サンズ)はある根拠を示しながら胸を張っていた。

 根拠とは今大会を8戦全勝で制し、初めて世界の頂点に立った強豪ドイツを、後半の20分間に限れば日本が32-28で上回っていた点だ。渡邊はこんな言葉を残していた。

「点差を離されそうになった後半に、みんなが踏ん張って40分間を戦い切れた」

 中1日で行われたフィンランドとの第2戦。第3クオーター終盤に最大18点差をつけられる苦境から大逆転を演じ、最終的に98-88で勝利した日本は不名誉な連敗記録を同時に止めた。

 続くオーストラリア戦は89-109で敗れ、6度目の挑戦で史上初の1次リーグ突破はかなわなかった。それでも東京五輪で銅メダルを獲得し、世界ランキングでは3位につける格上のオーストラリアを、ドイツ戦に続いて後半戦に限れば54-52で上回った。

 勢いと自信は17位以下を決める順位決定ラウンドへ持ち込まれた。まずは世界ランキングで17位と、日本の36位を上回るベネズエラに勝利。第4クオーター序盤で最大15点差をつけられながら、フィンランド戦の再現となる大逆転の末に86-77で撃破した。

 次はカーボベルデとの最終戦。これまでと異なり、第3クオーター終盤で20点ものリードを奪いながら猛追され、第4クオーターの残り1分あまりでついに3点差に肉薄された。しかし必死に耐え、最後は点差を広げて80-71で勝利した。

 W杯での3勝は1967年ウルグアイ大会の2勝を上回る歴代最多だ。32カ国中19位になった日本は今大会に出場したレバノン、フィリピン、中国、イラン、ヨルダンのアジア勢を上回り、アジア1位の国だけに与えられる来夏のパリ五輪出場権を獲得した。

 日本が自力で五輪出場権を獲得するのは、76年のモントリオール大会以来となる。そして、48年ぶりに達成した快挙こそが、今大会における日本の最大の目標だった。

 東京五輪で銀メダルを獲得した女子とは対照的に、男子は世界大会でほとんど爪痕を残せなかった。一転して日本、フィリピン、インドネシアで共催された今回のW杯で、これまでのあしき歴史をすべて塗り替える快進撃を果たしたのはなぜなのか。

 答えは21年9月に就任したアメリカ出身のトム・ホーバス・ヘッドコーチ(HC)による、日本の国民性に合わせた、日本人の長所を最大限に引き出すチームビルディングにある。というのも、多くのファンはご存じかもしれないが、東京五輪で女子を銀メダルに導いたのもホーバスHCで、大会後に男子代表の監督に転身したのだ。

 しかし、彼のマネジメント術が「異色の経歴」と密接に関係していることはあまり知られていない。