大会直前に右足首を捻挫したにもかかわらず、渡邊の1試合平均の出場時間は、大会全体で4位に入る35.0分に達した。1試合平均のブロック数も1.8で同3位タイ。カーボベルデ戦ではホーキンソンとともに、異例とも言える40分間フル出場を果たして日本の精神的支柱を担い続けた。

 自らの逃げ場をなくし、心身両面で追い込む意味で、パリ五輪出場を逃せば代表を引退すると開幕前に明言した。覚悟が込められた渡邊の言葉に、河村が「雄太さんを引退させたくない」と決意を新たにするなど、チームワークをさらに高める状況をも生み出した。

 パリ五輪切符を獲得した直後。渡邊はコート上で男泣きした。

「あんなことを言った手前、正直、不安もめちゃくちゃありました……しんどいときに、みんなが本当に頑張ってくれた。みんなのおかげです」

現役NBAプレーヤー・八村塁も
特別扱いせず

 チームを鼓舞するイズムや試合中などの指示を、ホーバスHCは通訳を介さずに伝える。初来日から延べ20年以上も日本で暮らし、言葉に不自由しなくなっただけではない。日本語を介して自分の思いを直接伝えて初めて響く。日本で指導者の道を歩み始めたときから貫いてきた不文律だ。

 そして、厳しくも優しい視線はすでにパリ五輪へ向けられている。例えばもう一人のNBAプレーヤー八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)。新シーズンへ向けた契約やコンディショニングなどを総合的に勘案し、W杯を欠場した八村が加わればチーム力は間違いなくアップする。

 しかし、ホーバスHCは八村と渡邊に対して、こんな方針を伝え続けてきた。

「まずは日本流のルールやシステムがあるチームをしっかり作り、そこへ2人がアジャストしてほしい。2人にチームがアジャストする形はよくない。システムのなかで2人をうまく使いたい」

 ここでも「日本にスーパースターはいない」が貫かれる。2人ともスピードとスタミナがあり、ディフェンスで体を張れて、3ポイントシュートもうまい。そのなかで渡邊はチームを縁の下で支え、NBAでの濃密な経験も後輩たちに伝えた。次は八村の番となる。

 ホーバスHCは「愛するバスケットボールを、日本のメインスポーツにしたい」と究極の夢を思い描く。パリ五輪の出場権獲得はあくまでも通過点。パリ五輪へ向けて全員で共有し、成就させる目標を新たに設定しながら、そこから逆算する形で再び男子代表を組み立てていく。

【訂正】記事初出時より以下の通り訂正します。
36段落目:比江島慎(宇都宮ブレイザーズ)→比江島慎(宇都宮ブレックス)
(2023年9月19日10:02 ダイヤモンド編集部)