伝説的バスケ漫画『スラムダンク』。多くの愛読者がバイブルとして挙げてきたこの名作が、本年12月に新作映画が公開されるとのことで、いま再び大きな注目を集めています。そんな中、実は本作品は、自己像がどのように規定されるのか、そして、その規定された自己像がどのように機能していくのかを考えるヒントを数多く与えてくれる、大変興味深い参考書でもあるのです。不朽の名作『スラムダンク』が私たちの自己存在のあり方についてどういった示唆を与えてくれるのかを見ていきましょう。(哲学研究者 野村将揮)
『スラムダンク』は「自分が何者か」を考える参考書?
週刊少年ジャンプで連載された伝説的バスケ漫画『スラムダンク』。不良少年として界隈でも有名だった主人公・桜木花道が、高校入学直後の一目ぼれを機に全く未経験だったバスケットボールを始め、さまざまな人間模様の中で全国制覇を目指していく青春スポーツ漫画で、その発行部数は1億2000万部以上に及ぶそうです。
さて、私自身は現在、京都で哲学の研究に従事しています。また一方で、新卒で入省した経済産業省での約5年の奉職を経て、創設1年未満・社員数10人未満のベンチャー企業に転職、執行役員を経てCXOとして従事し、まもなく5年目を迎えつつあります(余談となりますが、当該ベンチャー企業はこれまでに約40億円を調達し、経済産業省が選ぶ国内有数のベンチャー “J-Startup” にも選出されました)。
本稿では、私のこれらの経験に基づき、不朽の名作『スラムダンク』を組織や共同体、そして人間関係における「自己規定」という観点から、できるだけ小難しくない形で哲学的にひもといていきたいと思います。なお、ここで言う「自己規定」とは、あえてかみ砕いて言えば、「自分が何者であるかという自己像を定義・設定すること」といったような意味合いになろうかと思います。
本作の主人公のみならず、ほかならぬ私たちも、自分がどういう存在であるかを意識的・無意識的に設定・更新しながら日々ひいては人生を生きています。『スラムダンク』は、自己像がどのように規定・更新されていくのか、そして、その自己像がどのように機能していくのかを考えるヒントを数多く与えてくれる、大変興味深い参考書でもあるのです。
桜木花道という「天才」の誕生と他者
言わずと知れた『スラムダンク』の主人公、桜木花道ですが、相当な頻度で、彼の名ぜりふとしても大変有名かつ興味深い自己言及をしています。そう、「天才」です。