会社勤め中に自分の職務上の役割をしっかりこなし、やり切ったという充足感が退職後の自己肯定感につながるということもあるので、目の前の職務に没頭することも大事だし、給料をもらっている以上、それは当然義務でもある。ただ、その職務が突然なくなるのが、定年退職である。その時のことを考えると、職務上の役割以外に、勉強でも趣味でもいいので、何か会社の仕事以外に没頭できるものを作っておくことは欠かせない。

中年期も、定年前後も
人生の大きな転機には心の声が聞こえてくる

「中年期の迷い」とか「中年期の危機(ミッドライフクライシス)」ということがよく言われるが、近頃は定年前後の時期にも同じような迷いにさいなまれ、一種の危機と言ってよいような様相を呈している。それは、寿命の延びによって、定年後が単なる余生では済まされなくなってきたからだ。60歳前後は、第二の人生に向けての大きな転機なのである。

 目の前の仕事に追われ、考える間もなく必死に働く時期を過ぎ、少し余裕が出てくる中年期に、

「このまま流されていて良いのだろうか?」
「目の前のことに追われ、何の疑問もなくこのまま突っ走ってしまって良いのか?」
「後になって後悔するような人生にしたくない」
「軌道修正するなら今のうちだ」

 といった心の声が聞こえてくる。それが中年期の危機と言われるものである。

 定年前後の時期にも、

「このまま定年延長に乗ってしまっていいのだろうか?」
「再雇用に乗るのが安心だが、ずっとこの会社でよいのだろうか?」
「これまでの延長で働けるのは安心だけど、ずっとこの仕事で満足なのだろうか?まったく別の第二の人生もあり得るのに、後悔しないだろうか?」
「年金のほかに少し稼げればよいのだから、定年を延長するよりも、本当に自分がやりたいことをして暮らすほうが良いのでは?」
「せっかく職業生活から解放されることも可能なのに、安心安全につられてこのまま働き続けてよいのか?」

 などといった心の声が聞こえてくるようになる。