人間、50代くらいになると、人生の残り時間が気になるようになってくる。仕事をするのはあと何年、平均寿命まであと何年……。平均寿命が長い日本では、定年退職をした後もまだまだ人生は続く、と考えている人は多いだろう。しかし、元気に自由に動き回れる「健康寿命」を考えると、実は残された時間はそれほど多くないことに気付くはずだ。(心理学博士 MP人間科学研究所代表 榎本博明)
「平均寿命」と「健康寿命」、50~60代で気になってくる
日本人の平均寿命は、男性が81.05歳、女性は87.09歳。 働き盛りの頃から中年期にかけて、平均寿命の中間点を通過することになるが、多くの人たちは目の前のすべきことに追われ、先のことを考える余裕がなかったはずだ。ところが50代にもなると、定年退職まであと何年などと数えるようになって、職業生活の残り時間、さらには人生の残り時間が気になるようになる。そうなると気になるのが「健康寿命」だ。
平均寿命に対して、健康寿命というものがある。健康寿命とは、厚労省の資料によれば、日常生活に制限のない期間の平均のことである。言い換えれば、自由に動き回れる生活が何歳まで可能であるかということである。
たとえば、日本人の2019年の平均寿命は、厚労省の資料によれば、男性81.4歳、女性87.5歳となっている。それに対して、日本人の2019年の健康寿命は、内閣府の資料によれば、男性72.7歳、女性75.4歳となっている。
そうすると、平均的な男性の場合は、81歳くらいまで生きる可能性があるものの、自由に動き回れるのは73歳くらいまで。平均寿命と健康寿命の間の約8年間は不自由な生活を強いられるということになる。平均的な女性の場合は、88歳くらいまで生きる可能性があるものの、自由に動き回れるのは75歳くらいまで、約13年間不自由な生活を強いられるということになる。
このところ健康寿命という言葉が世間に広まってきたためか、「これまでは平均寿命を念頭に置いて、まだかなり残り時間があると思って楽観していたけど、健康寿命が尽きないうちにやりたいことをやっておきたい。そう思うと、少し焦ってきた」という人もいる。「毎日ただ何となく暮らしてきたが、健康寿命というものを知ってからは、自由に動けるうちに気になることをしておかなければと思い、気が引き締まって、だらだらすることがなくなった」という人もいる。特に持病があったり、身体の不調を感じることが多かったりすると、健康寿命は非常に気になるはずである。