新日本酒紀行「上喜元」酒蔵外観 Photo by Yohko Yamamoto

30品種の米を使い分け、多品種少量仕込みで技を伝える酒造り

 酒の字を冠する山形県酒田市は日本有数の穀倉地帯で、最上川が日本海と出合う港町。その市中に唯一残る酒蔵が酒田酒造だ。1947年に飽海(あくみ)地域の5蔵が合併して創業。5代目で杜氏の佐藤正一さんは46年生まれ。合併蔵の出身で東京農業大学卒業後、71年に蔵人として入社。腕を買われて74年に杜氏、98年に社長に就任した。今も醸造の最前線に立ち、松山酒造と二つの蔵の経営を担う。

 引き継いだ頃は、大手に桶売りしていたが、時代の変遷とともに高品質な酒造りへ舵を切り、吟醸酒をいち早く手掛けた。好奇心旺盛で醸造道具を独自に工夫、全国の優良な酒米を試し、圧倒的な多品種少量仕込みを行う。米は30品種を使い分け、全て10キログラムずつ丁寧に手洗い。品種と酵母の相性を見極め、多彩な精米歩合と酵母の組み合わせで飲み手を魅了する。全国新酒鑑評会では、9回連続金賞受賞という実力派だ。若手にも挑戦を促し、楽しい新商品も続々誕生。「今が酒造り史上最高においしい」と佐藤さん。また、宿舎も用意し、県内外の若手に技術指導を行う。「自社だけが良いという考え方では、日本酒全体が他の酒から後れを取る」。ここで学んだ富山県の林酒造場や三重県の早川酒造は、優秀な結果を出して期待の新星に。