「私の仕事はデザインとは無関係」と思っていないだろうか? 近年、「デザイン」の対象領域が拡大している。あなたが使用している製品、利用しているサービス、そのすべてにデザインが重要な役割を果たしている。今回、デザイン会社・グッドパッチのデザインリサーチャーである米田真依氏が、ソニーのクリエイティブセンターを訪問。同センターは、ソニー元社長・大賀典雄氏の肝煎りで、1961年にデザイン室として設立し、大賀氏が室長を兼ねて以来、「ウォークマン」や「VAIO」など、時代の流行を担ってきた多くのソニー製品のデザインを手がけてきた。ソニーはいかにしてトレンドをつかみ、製品開発に活かすのか? 「デザインリサーチ」とは何か? クリエイティブセンターの3人のキーパーソンを取材した。(インタビュー/グッドパッチ 米田真依、文・構成/奥田由意、編集・撮影/ダイヤモンド社 編集委員 長谷川幸光)
製品開発のために調査を始めるのは遅い
「デザインリサーチ」とは何か?
(株)グッドパッチ デザインリサーチャー。京都大学経済学部卒業後、パナソニックでの海外グループ会社の経営分析担当、P&Gでのマーケティングリサーチャー職を経て、UX(ユーザーエクスペリエンス)デザイナーとしてグッドパッチに入社。デザインリサーチに関するソリューションを立ち上げる。2022年6月より北海道上川町とのプロジェクトを開始し、2023年1月に上川町に移住。武蔵野美術大学大学院クリエイティブリーダーシップコース修了。 Photo by HasegawaKoukou
米田真依(以下、米田) 本日はよろしくお願いいたします。「そもそもデザインリサーチとは何か?」というところからお聞かせいただいてもよろしいでしょうか。
大野茂幹(以下、大野) 製品やサービスを「デザイン」するために必要なリサーチをすることです。
一般的に「リサーチ」というと、「20代の50%はこういうことに興味がある」といった「マーケティングリサーチ」のような、「定量的なリサーチ」を思い浮かべると思います。そちらはマーケティングに特化した部署が担当したり、外部の調査会社に依頼をしたりしますよね。
一方で、私たちデザインリサーチャーは、デザイナーの目、勘、感性などを活用して、「定性的な調査」をするというのが主な仕事です。例えば、カメラなど、ある特定の製品を、ある特定のユーザーに使っていただいて、その様子を観察して、「(使用上の)どこで困っているか」「(機能で)何があると良いのか」といったインサイト(※洞察、発見)を引き出します。
ソニーグループ(株) クリエイティブセンター コーポレートデザイン部門プランニング&プロモーショングループ 統括部長。2002年にソニー入社後、PCやオーディオ機器のプロダクトデザインを担当。中国(上海)赴任を経て、新規事業の創出とインキュベーション、要素技術R&Dに関わるデザイン開発のマネジメントに携わる。2018年より、デザインリサーチ、知財、PR、プロジェクト推進を担当するグループのマネジメントを担う。 Photo by H.K.
特に最近では、製品開発のためにリサーチを始めるというのでは遅いんです。「世の中がこの先どうなるか」「今後はどのようなものが幸せだと感じられるのか」「どういうことがこれからの価値になるのか」といった「未来についてのリサーチ」をしています。
マーケティングリサーチなどの定量的リサーチは、統計学に近いもので、現状分析には強みはありますが、そこから未来に向けたインサイトを導くことは難しい。
一方でデザインリサーチのような定性的リサーチは、未来を予測するヒントを見いだすことができます。例えば、ある国の先住民族の生活を観察し、そこからあらためて人間の本質を考えるといった、文化人類学に近いものがあるかもしれません。
尾崎史享(以下、尾崎) 「人」を起点にしたリサーチですね。
鈴木茂章(以下、鈴木) 数値としてのポテンシャルはそれほどではないかもしれないけど、数字に表わせない何か強いものがありそうだ、ちょっと掘り下げてみよう、こういった議論をしています。
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米田 ソニーのクリエイティブセンターにおける、デザインリサーチの対象範囲は、どのあたりになるのでしょうか?