デザインリサーチャーに向いているのは
「人間の幸せって何だろう」と考えるのが好きな人

4名Photo by H.K.

大野 利他的な人といいますか、「人間の幸せって何だろう」ということを考えるのが好きな人が向いていると思います。

尾崎 人を起点にしたリサーチなので、人に興味を持つこと。利用者などのステークホルダーに共感する力があること。主観的に解釈してアウトプットできること。

 もちろん、自分の感性で「今、何がおもしろいのか」を発見できるアンテナの感度も重要です。

鈴木 利他的で主観の強い人たちが集まり、いろいろな部署とぶつかりながら、共創することで、おもしろいものが生まれる。

大野 そういう意味では、デザインリサーチャーは、定量的な分析が強いビジネスパーソンとか、要素技術開発のエンジニアとか、職人肌のデザイナーとか、そうした正反対のタイプの人と組むと、補完し合えていいんですよ。

尾崎 「あそこでおもしろいことが起きているらしいから行ってみよう」というモチベーションになるので、好奇心も大切です。

鈴木 マーケティングの数字としては小さくても、「何かが激しく動いているぞ」と反応する嗅覚も大事です。

大野 いかにいろいろなものに興味を持てるか。おもしろがろうとする意欲があるかどうか。世の中で起きていることに興味を持てない人は広がりを考えられなくなる。

尾崎氏尾崎史享(おざき・ふみたか)
ソニーグループ(株) クリエイティブセンター コーポレートデザイン部門プランニング&プロモーショングループ リサーチプロデューサー。2010年にソニーに入社後、VAIO事業本部に配属、PCの商品企画に携わる。2015年よりソニーモバイルコミュニケーションズに異動、Xperiaスマートフォンの商品企画を担当、シンガポールの駐在を経験。帰国後、クリエイティブセンターに配属、さまざまなデザインプロジェクトのデザインリサーチを担当。 Photo by H.K.

尾崎 先ほどお話した「DESIGN VISION」というトレンドリサーチのレポートは、デザイナーが世界中のさまざまな現場へ行って調査をします。

 自分たちの足で現場を訪れ、現場で学んで体感することで、感性も磨かれている。エンジニアや製品企画の人と一緒にフィールドリサーチに行き、実際に見てもらうこともあります。

鈴木 たまたま同行していたエンジニアの目についたものに、すごいヒントがあったりします。

米田 環境と人は相互に影響し合っているので、現場に行かなければわからないし、行くと否応なしに、そこにあるものに興味を持つことになりますね。

尾崎 ダイバーシティという観点も重視していて、クリエイティブセンターには海外にも拠点があるので、「DESIGN VISION」では、人種、性別、バックグラウンドなどが多様なグローバルのメンバーでチームを組んでいます。現場を多角的な視点で見る。すると、同じ場所でもそれぞれが違うものを見ている。それを出し合うんです。

社会へもっと、デザインの
重要性を浸透させていきたい

米田 今後、デザインリサーチの重要性は高まっていくと思いますか?

大野 ますます先が読めない時代になり、今後はさらに、感性や直感で勝負するところが出てくると思っています。

 定量的な数値的なところにあまり頼らず、定性的な価値を大切にし、「世の中どうすれば良くなっていくのか」というビジョンを提案し、ビジュアライゼーションして見せる。デザインリサーチャーやデザイナーを、そういうところにぜひ活用してほしいです。

 実際のビジネスに近づくになるにつれ、嫌でも数字を作ることにはなりますが、出発点は数字がなくても始められるようになってきたというのが、ここ2〜3年の傾向ですね。数字で結果が出ているということは、すでにレッドオーションになっているということですからね。

 中期経営戦略やコンセプトを考えるとき、企業コンサルの際などにも、デザインリサーチの手法を使うと、もっと可能性が広がるのではないかと思います。

鈴木 マーケティングの数字というのは、どうしても今を数値で表すことしかできません。その先を見て、違う切り口や違うものを提示し、提示された側がイメージしやすいよう、触れられる形に落とし込んでいく。デザインリサーチの重要性はますます増していくのではないでしょうか。

尾崎 「両利きの経営」というフレームワークがありますが、それでいえば、デザインリサーチはまさに「探索型」です。数字に依拠しない。もちろん数字やデータを決して軽んじていいわけではありませんが、新事業などはむしろ、今ある数字に依拠すると、探索ができなくなってしまいます。

米田さんPhoto by H.K.

米田 ソニーのクリエイティブセンターの今後の展開はどのように考えていますか?

尾崎 デザインリサーチとその想像力は、事業部でのプロトタイピング(製品やサービスの試作)や、製品企画やマーケティング、既存製品のデザインなど、もっともっといろいろなところで活用できるはずです。

 私たちのデザインリサーチが、よりアクションにつながるよう、アウトプットの仕方やフォーマットのアップデートを常に行っていきたいと思っています。

大野 インタビューによるリサーチはもっとやっていきたいですね。昔は、「イケてるデザイナー」に話を聞くことが多かったのですが、今は文化人類学者や和尚さんにも話を聞いています。何をもって「いいデザイン」「いいビジネス」といえるのか――。デザインの範囲はどんどん広がっているので、視点を増やし続け、広げ続けなければなりません。

鈴木 そうですね。現代は、プロもアマも関係なくクリエイターになれる時代です。そのような多様な人たちを対象に、誰にリーチすべきか。ターゲットを絞り込んだ上での、デプスインタビューなどがますます重要になってくると思います。

大野 「デザインは自分と関係ない」と思っているビジネスパーソンも多いと思いますが、そのような方々にも関心を持ってもらえるよう、社会へもっと、デザインの重要性を浸透させていかなければなりませんね。

【取材を終えて】
 今回お話をお聞きし、特に「未来に向けたインサイト」という言葉が印象的でした。そして、「リサーチを結果に結び付けること」、そのために「目に見える形にし、触れられる形にして伝えること」、この2点を特に重視されていると強く感じました。また、実際に活用する組織や担当者のことを理解した上で、リサーチ結果をカスタマイズするという点も、リサーチャーの重要なスキルの一つであり、私たちが日々のリサーチで意識して取り組んでいる部分なので、非常に共感しました。
 これまでさまざまなクライアントから「過去のリサーチでは結果に結び付かず、リサーチには価値がないと感じた」という話を聞き、もったいないと思っていました。今回の取材では、リサーチから「価値を得ること」へとつながる、たくさんのヒントが詰まっていたと感じています。(グッドパッチ・米田真依)