ゲームや音楽、映画、金融などへも拡大
広がるデザインリサーチの対象範囲

4名Photo by H.K.

大野 もともと、エレクトロニクスのインダストリアルデザイン(※量産可能な工業製品の設計や造形)やUI(ユーザーインターフェイス)/UX(ユーザーエクスペリエンス)デザインが中心でしたが、現在は他の5事業(ゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画、イメージング&センシング・ソリューション、金融)にも対象が広がりました。

 人工衛星から撮影できるサービス、メタバースの設計、コーポレートブランディング、環境に配慮したパッケージ素材の開発、2024年完成予定の「新・Ginza Sony Park」のデザインなども手がけています。

 2021年にクリエイティブセンターは設立60周年を迎えましたが、ソニーグループの事業領域の拡大に伴い、デザインの対象も格段に広がり、グラフィック、UI、アプリケーション、ブランディング、空間など、幅広い領域のデザインを手がけるようになりました。

米田 メンバーはプロジェクトごとに替わるのですか?

大野 対象によって、関わるメンバーも、リサーチする内容や手法も、変わります。基本は担当デザイナー自らがリサーチしますが、エンジニアや現場のメンバーと一緒にリサーチすることもありますし、リサーチに特化したデザインリサーチャーがリサーチを担う場合もあります。

世の中のトレンドを把握するためのリサーチ
「DESIGN VISION」と「CMFフレームワーク」

米田 リサーチの内容について教えてください。目的別に、(1)「トレンドリサーチ」、(2)「R&D(研究開発)向けリサーチ」、(3)「ルーチーンワーク向けリサーチ」、主にこの3つがあるそうですね。

book写真提供:ソニーグループ(株)
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大野 (1)の「トレンドリサーチ」は、世の中に共通するマクロトレンドを把握するものです。

 デザイン対象というのは、今お話ししたように、メタバースや建物といった領域にまで拡大しているので、社会全体のトレンドを理解していなければ、デザインすることが難しくなってきています。これには主に2つのプロジェクトがあります。

 1つはDESIGN VISION(デザイン ビジョン)」と呼んでいるものです。3〜5年くらい先を見据えて、社会のトレンド、デザインのトレンド、技術のトレンドなどを総括し、そこからいくつかのテーマを見いだし、レポートを作ります。冊子にまとめたり、社内のWebサイトで公開したりして、ソニーグループ全体に展開します。

鈴木 もうひとつは、CMFフレームワークのプロジェクトです。CMFは、プロダクトの表層を構成する、Color(色)、Material(素材)、Finish(加工、仕上げ)の頭文字を取ったものです。「DESIGN VISION」で見いだしたトレンドをもとに、「手わざ感の魅力」「共鳴するエナジー」などテーマを4つくらい定め、それをオブジェクトや、ムービー、カラーパレット(※配色見本)などの形でビジュアル化して、イメージを共有できるようにします。同じ素材や色や仕上がりでも、時代によって世の中からの受け取られ方が異なるので、リサーチしたトレンドを踏まえて、提示します。

CMF写真提供:ソニーグループ(株)

米田 「DESIGN VISION」や「CMFフレームワーク」のプロジェクトは、一般の人は見ることができるのですか?

鈴木 基本的にはソニーグループ内に向けたものとなりますが、「CMFフレームワーク」は、昨年、東京で開催した「CMF×MOOD」というイベントで初めて社外の方々にも公開し、今年(2023年)9月には、シンガポールでも展示しました。

米田 近年はどのようなトレンドの要素があるのですか?

鈴木氏鈴木茂章(すずき・しげあき)
ソニーグループ(株) クリエイティブセンター インキュベーションデザイン部門 スタジオ2 担当部長。2002年にソニーデジタルデザイン入社後、おもに携帯電話のプロダクトデザインを担当。2006年よりソニーモバイルコミュニケーションズにて、Xperiaスマートフォンのプロダクトデザインを担当。2010年よりマネジメントに携わる。2017年よりオーディオ機器、2021年よりモバイル機器のデザイン開発を担当するグループのマネジメントを担う。 Photo by H.K.

鈴木 パンデミック後、衛生面や倫理観や、それらに対してテクノロジーがどう使われるか、といったことへの注目が高まっています。また、テクノロジーと自然とのバランス、リアルとバーチャルの境界が薄れてきていることなどが、要素として目立っています。

大野 (2)の「R&D向けリサーチ」は、時代の少し先を見据えて、新しいプロダクトやサービスのデザインを開発するためのリサーチです。

 R&Dを専門としている部門と一緒に、新しいUI(ユーザーインターフェイス)やUX(ユーザーエクスペリエンス)を開発することもありますし、既存の事業部と一緒に、次世代の製品を開発することもあります。「実際に製品化して発売するかどうかはその時点ではわからないけれど、とりあえず開発し、提案してみよう」というものです。特定の部署からの提案もあれば、(1)のCMFフレームワークやレポートをもとに、私たちクリエイティブセンターが率先して開発し、披露することもあります。

(3)の「ルーチンワーク向けリサーチ」は、その名の通り、既存製品をデザインするルーチーンワークのためのリサーチです。

 例えばプロダクトですと、テレビやヘッドフォン、スマートフォンなどの製品のデザインの依頼が事業部から来ます。ルーチンワークは、どのプロジェクトもデザインのプロセスは共通しています。

 計画を立てる→デザイン対象を探索し、理解し、共感する→その内容をもとにコンセプトを作る→プロトタイプを作る→テストし、評価・検証する→必要に応じて修正する→最後にプロダクトとしてデプロイ(製品化)する。その後は、お客様からフィードバックを得る→それをまた次の製品に生かす、という流れです。

米田 デザインリサーチをしても、結局、リサーチしたものが使われず、リサーチのためにリサーチをしていたり、レポート作りが目的になってしまったりする例も、よく耳にします。クリエイティブセンターは、結果に結び付く、実態のあるリサーチをされている印象ですが、リサーチャーとして、どういった工夫をされているのでしょうか?