数年前から、保育の現場で「お昼寝ハラスメント」という単語が聞かれるようになってきた。保育園のお昼寝の時間に、嫌がる園児を無理に寝かせようとするのはハラスメントに当たるのではないか、という考え方に基づく指摘である。この「お昼寝ハラスメント」は、今注目されている不適切保育に該当するのか。是正・根絶していくべきなのか。あるいは昨今のなんでもかんでもハラスメントと騒がれてしまう風潮の一環なのか。現役保育士の話を参考にしながら考えてみたい。(取材・文/フリーライター 武藤弘樹)
保育現場で行われている
お昼寝シークエンスの実態
まず、「お昼寝ハラスメント」について考える前に、保育の現場でお昼寝シークエンスがどのように行われているかを知っておきたい。保育園などの児童福祉施設における運営の基本方針は、厚労省『保育所保育指針』にて大まかに定められていて、お昼寝(午睡)に関する言及をざっとまとめると、次の通りとなる。
「午睡は生活のリズムを形成していく上で重要な要素。しかし園児ひとりひとり体質や性格、在園時間などの事情が違うので、一律にならないよう配慮すること」
この『保育所保育指針』はその名の通りあくまで指針で、具体的で細かい部分は各保育所に委ねられている。
勤続20年を超すベテラン保育士のAさん(女性)は「お昼寝ハラスメント」という言葉は存在だけ知っていたが、現場でそれを聞いたことはなかった。しかし不適切保育の問題が世間で取り上げられるようになったり、近年の「子どもの人権」についての問題意識が高まったりするにつれて、Aさんが勤務する公立の園でも「お昼寝ハラスメント」について一層の注意を払うようになってきたそうである。