そこで、保育士たちは勉強会やディスカッションを通して、お昼寝したがらない子にお昼寝させることは人権侵害や不適切保育に当たるか、といった種々のトピックへの理解を深めつつ、保護者の「うちの子は夜寝られなくなるのでお昼寝させないで」や「お昼寝したら1時間で起こして」といった個別の要望に、保育士の負担が増えるのはある程度覚悟で、可能な限り応えようというのがAさんの園の方針である。

 上記の保護者の要望に見られる通り、園児のお昼寝は保護者にとって非常に繊細な問題である。ちょっと寝たとか寝ないとかで園から帰宅したあとの子どもの機嫌は大幅に変わり、それによって保護者の大変さも大きく変動する。寝ていないと機嫌が悪くなって言うことを全く聞いてくれなくなったり、寝すぎて夜寝る時間になっても寝ようとしてくれなかったり、ちょうどいい塩梅にお昼寝できたのか終始機嫌がいいまま床についてくれたり――である。

 この子どものお昼寝の効能は保護者にとってのものだが、では子ども自身にとってはどうか。先に紹介した『保育所保育指針』では、午睡は生活のリズムの形成や、園の生活の中で休息を担う必要なものとして位置づけられている。

 子どもの自主性を重んじている園では「お昼寝したくない子はしなくていい」という采配もあるそうだが、Aさんは「乳児クラスでお昼寝をなくしたら確実に体調を崩すのではないか」と話す。特に寝るのが仕事のごとき乳児にとっては、お昼寝は健康上の理由で不可欠なものらしい。

「お昼寝を好きな子は
ほとんどいない」説

 とはいえ、「基本的に、お昼寝を好きな子は少ないのではないか」というのがAさんの体感である。

「睡眠という無防備を他人に晒したくない動物的な防衛本能が、子どもに備わっているように感じる。自宅でもない場所で親でない人に寝かしつけられるのは、子どもにとって結構なストレスなのではないかと思える」(Aさん)